短編

□蛇
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神の子をそそのかした罪で切り落とした足がある。
足での歩き方なんて知らないし慣れないしよく分からない。
いつものように腹ばいになって床を這いずり回る。

「ねぇ、リドル坊や、起きて」
自分の知らない言葉が口から出るのは不思議な感じがする。
きっと、人間の言葉だわ。
骨と皮だけに見える細い自分の腕。気味が悪い。

「起きて、お腹が空いたの」
学生の頃彼に出会って気に入られた。
ご飯をくれるし甘やかしてくれるから私は彼と今まで一緒に居た。
学生だった彼はもう大人になりつつある。
なんとかって言うお店で働いて悪さも少々している。

「…ナギニ?」
ふと深い茶色の瞳が私を捉えた。驚いたように見開かれている。
時計はとうの昔に12時を過ぎていた。
皮肉の嫌味としておはようと言葉をかける。
驚いた表情のまま彼はおはようと言葉を私に返した。
どうやら嫌味は通じなかったらしい。

「どうして…―」
人の姿に、彼が疑問に思うのは分かる。
けれど私にだって分からない。聞かれても困る。
ふりふりと首を振った。肉(焼いてもらった)を頬張りながら。

「ねぇ、人の姿になったんだもの。もっと可愛い名前をつけて」
ようやく目覚めた彼は先程から驚いた表情しかしていない。
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