短編

□ぷるーむ
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時々赤く光る瞳と感情を要さない表情と、
ああ、それから言葉に出来ない何かに惹かれていた。

憧れという美しいものではなくて崇拝すべき何かを彼に見出していた。
それほどまでに彼は突飛で人を魅了する何かがある。
彼との付き合いも数年となりようやく慣れてきたと思った頃だ。

「お兄ちゃん!」
彼をそう呼んで抱きつく少女が目の前に現れたのは。
え、いや、何これ、嘘だよね。そんな話俺一回も聞いた事ないんだけど、え、どういう事。
戸惑いながらも愛らしい笑顔を浮かべる少女を見つめていた。
何かの間違いだ、いや、間違いであってくれ、との願いは残念ながら砕かれる。
今までに見たことのないへにゃりとした笑みを浮かべた彼、リドルは少女を抱きしめてた。

「レイラ、入学おめでとう」
今まで冷淡に、それでいて美しく人と上手くやっていくだけの上辺だけの笑み。
それしか俺は見た事が無かったのだけれど何だ、このへにゃへにゃした笑みは!
誰だ、こいつは誰だ!俺の知っているリドルではない。誰だこいつ!

「レイラ、ちゃんとお兄ちゃんと一緒の寮だったわ!嬉しいの!」
これまたへにゃんとした笑みを浮かべながら少女が嬉しそうに言う。
言われてみれば彼女とリドルは確かに、そう、確かに似ている。

「リドル、あー…お取り込み中の所すまないと思っているが…」
深い茶色の瞳がちらりとこちらを見た。
先を促すその視線に押され、早口でまくし立てる。

「俺は聞いた事が無かったが、君には妹が居たのか」
彼は否定する事無くこっくりと頷いた。
実の妹です、とだけ言うと再び彼は妹だという少女を見つめた。

「レイラ、良い子だからよく聞いて。この人はアブラクサス・マルフォイ。
スリザリンの先輩だけど近づくと妊娠しちゃうから近寄っちゃ駄目だよ」
近づかれても逃げるんだよ、と優しく諭す声で微笑をたたえたリドルが言う。
何を言ってるんだお前は。笑顔で嘘をつくな。
不安げにリドルの妹、レイラがリドルの背中越しに俺を見上げている。
本当に?そうなの?とでも言いたげな顔だ。嘘に決まってるだろう。
ちらりとこちらを見たリドルの目が赤かった。彼の目が赤くなるのがどういう時か嫌と言うほど分かってる。
ので、両手を体の前に出した。あれ、何で俺後輩に気をつかってるんだろう。
俺別に悪い事してないのに。泣くな俺。大丈夫だ俺。

あまりにも人らしくない後輩の人間らしいその姿にひどく安心したという事も付け加えておこう。
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