無
□はっぴーえんど
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「止めて、殺さないで!私には子供がいるの…まだ幼い子供が…!」
泣き叫ぶ声が耳に届く。
どくどくと心臓が鳴り響いてうるさい。
気持ち悪い。意味が分からない。現実感がない。
誰だろう彼女は。ここは何処だろう。何で、どうして、…
「レギュラス、目を離さないで、よく見てなさい」
優しい子供にかけるようなそんな声で従姉さんが言う。
うっとりとした夢でも見てるようなそんな表情で。
人が死ぬのに。
殺されてしまうのに。
あの人の声が響く。
名前を呼ぶ事さえ恐れられるあの人の声が。
僕自身が畏怖しつつそれでいて尊敬し崇拝しているあの人の声だ。
短いその声が聞こえたのと同時に女の人がぱたりと倒れて動かなくなった。
人が死ぬところを初めてみたのが16歳の夏だ。