中編

□D
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「私は貴方の事を好きになるなんてない。絶対にありえない。
だけどお互いもう失うものも無いのだから歩み寄っても良いとは思ってます」
呆然と私を見つめている男爵にそう一方的に言って背を向ける。
ここまで案内して傍にいてくれたトム・リドルが私を追ってくる。

「ちょっと待って!用事って今のがそうなの?」
「ええ。ありがとうトム、案内してくれて」
「ああ、そうじゃなくて!やっぱり止めて置けば良かった!」
何をそんなに騒ぐのかと動くのを止めた。
男爵の姿はもう見えない。大分遠ざかったらしい。
振り返って彼を見れば少し息を切らして私を見た。

「…どうして?」
思わずそう問いかけた。

「だって、あんな…あんなのを手伝うなんて!
僕は菊花が好きなのに…馬鹿みたいじゃないか!」
…どうもよく分からない。
私が余程不思議そうにしているのか彼は言葉を続ける。

「僕は今日菊花とお別れなのに、男爵はずっといられるじゃないか。
あれで菊花と男爵が上手く行ってしまったら…」
言葉をつまらせる彼に私は思わず笑ってしまった。
だって、だって、男爵を好きになるなんてありえない。
考えた事もない。絶対に無理だろう。
…トムを好きになる事も同じくらい無理だと思うけど。

「トム、私にまた会いたいならその努力をすればいい。
ここいいられる努力を…貴方は頭が良いんでしょう?」
不思議そうな表情をしている彼を置いて私はふわふわと宙に浮く。
今日はとても遠くまで空が広がってる…灰色の雲に覆われているけれど。

森の中で鈍く光る銀色は誰も知らない、知らない。
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