照らす太陽

□5枚目
1ページ/3ページ

屋敷の中に甘くかぐわしい香りが漂っている
だが、まともに食事をとっていない身には逆に胃酸をこみ上げさせる

フェ「兄さん、ルカとリモーネパイを焼いたの。
一緒に食べよう?」
『悪いが遠慮しておく。
パーチェにでも渡してやってくれ』
フェ「え、でも」
ノ「忙しいのだろう。
あまり煩わせてやるな。
騒がせてしまい、申し訳ありません」
『気にするな』

顔を上げることなく応対する
しばらくすると部屋に揺蕩う甘い香りも薄れていった
フェリチータがリモーネパイを焼くのを手伝ったと言われると、
ノヴァに初めて会った時のことを思い出す
あの時も、妹がノヴァのためにとパイを焼いたはずだ
味見を頼まれたのを覚えている

あの時のパイを、ノヴァは喜んでいたのだろうか
あの場には居られなかったから、俺はそれを知らない

ル「ディク様」
『何か問題でも起きたか、ルカ』
ル「いえ、その・・・。
最近あまり食事を摂っていらっしゃらないようですし」
『だからどうした』

今度も、顔を上げるつもりはない
早く立ち去ってくれないか
大量のパイを焼いていたせいだろう
ルカの服から香る甘い香りが頭痛を引き起こしている

ル「お嬢様も心配されています。
せめて、朝食だけでも皆さんと一緒に食事をしませんか?」

心配そうな声を出しているくせに、部屋には入ってこようとしない
先日の言葉が効いているのだろうか
最近はほとんど顔を合わせようとしていなかったというのに、それでも声をかけてきたのだ
余程心配をかけているらしい
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ