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□旅立ちの日に。
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「兄さん…また怪我したみたいだね。大丈夫かい?」「「あーっ…まっ、大丈夫!大丈夫!!これ位何ともねぇって!」
僕が言うと、兄さんは気を遣ってくれたのか、それとも本当に気にしてないのか大口を開けて笑った。
全く…僕がいなくなったらどうするつもりなんだろう。
僕は、この修道院を明日去るのに―。
そう思ったとたん、胸の奥を握り潰されるような鈍い痛みが走った。
寂しさとは、また別に湧き上がって来た感情のせいだ。
本来なら、あり得ないこのキモチを振り払うために、僕は溜め息と共に呟いた。「…大丈夫かどうかは別にして、そろそろ喧嘩も止めないとダメだよ。
小さい頃から、いつも兄さんは…。」
「なんだよ、雪男まで説教かぁ?最近、お前親父に似てきてるぞ。」
不服そうな兄の言葉に、緩く首を振る。
「説教なんてしてないよ。…ただ心配なんだ。だって僕は兄さんがっっっ!」
言いかけて、僕は慌てて口をつぐんだ。
いけない。感情に飲まれて口を滑らす所だった。

僕が、兄さんに恋愛感情を抱いている事を。

この想いは、誰にも知られてはいけないのに…。
そう。同性で、しかも双子の兄を好きになるなんて、立派な罪…禁忌だ。だからこそ、兄さんを困らせる訳にはいかない。
兄さんを巻き込まないためにも、僕は寮に入る事にしたんだから。
そんな風に、考えに沈んでいると、ふいに兄さんに声を掛けられた。
「…い、どうしたんだ、雪男?おーい?」
気がつくと、兄さんの顔が目の前にあり、さりげなく目線をそらす。
「いや、何でもないよ。ほら、手出して?治療するから。」
「へいへーい。」
内心の動揺を、上手く隠しつつ、兄さんの手にそっと触れる。
脱脂綿に染み込ませた消毒液で、傷を丁寧に拭いていると、兄さんが遠い目をして、呟いた。
「今日で、雪男にケガ治してもらうのも、最後かぁ…。―お前、医者になるんだよな?」
「まぁね。」
「頑張れよ〜!!
まっ、俺が応援しなくたって、お前ならなれるだろうけどな!」
「っ/////!」
ど、どうしよう…兄さんが頑張れって言ってくれたっ/////。
僕、絶対に医者になるよ。大好きな人からのエールを受け、僕はやや興奮しながら、言った。
「ありがとう。兄さんが怪我した時は、いつでも看て上げるよ。…勿論、有料でね。」
「おおっ、サンキュー!
そン時は、世話になるからよろしくなっ!」
「あっ…有料って所は、スルーなんだ…。」
「?何か言ったかー?」
「いや、何でもないよ。」
他愛ない話に、胸が熱くなる。
好きすぎて、たまらない。もう、自分の気持ちが…。僕は、兄さんをじっと見つめた。
「って、おい、雪男?
俺の顔に、なんか付いてるか?」
「兄さん…。」
戸惑う兄さんに、顔を近づける。
綺麗な瞳が、僕を視ていてくれている。
兄さんと僕の距離が、近づけき、唇が重なりそうになった、次の瞬間―。
「燐っー!!」
「「!!?」」
とうさんが、部屋に入ってきて、僕らは慌てて飛びのいた。
危なかった…。
フインキにのって、してしまう所だった。何をしてるんだ、僕はっ…!
「ちょっと話があるんだが―って、お前また喧嘩したのか!?あれだけ言ったのによぉ!ほら来い!!この親不孝行バカ息子っ!」
「げっ!!オヤジ!?
いや、ちょ、まっ、ああああああアアアアアあっ!!」兄さんは、とうさんに引きずられて、どこかに行ってしまった。
僕は、溜め息をついた。




―次の日の朝。
寮へ行く準備を終えた僕は、眠っている兄さんを見つめ、そして―。
「さよなら、兄さん。」
その唇に、そっと口付けを落とした。
「…大好きだよ。」
1人囁くと、僕は、最愛の兄に背を向けた。

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