黄金の生命-イノチ-

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第四次聖杯戦争。
冬木市にて行われている、万能の願望機・聖杯の所有を巡っての魔術師同士の殺し合い。
様々な思惑が渦巻く此度の聖杯戦争。
そこに召喚されたアーチャークラスのサーヴァント、黄金の甲冑を身に纏う英雄王・ギルガメッシュは、現代の町並みを散策していた。
勿論、霊体化を…している訳ではなく、現代の装いに近い格好で、民衆に紛れているのだった。

「…全く、有象無象が多すぎるな此処は」

時刻は夜の七時を少し回ったところ。
繁華街では、様々な人々が行き来する、最も人口密度の高い時間帯だった。
皆は足早に歩を進めているが、ギルガメッシュはゆったりと悠然とした態度で歩んでいた。
王としてのソレからだけではなく、周囲をよく観察し、現代をよく把握する為、なるべく多くの情報を集めていたのだった。
聖杯戦争に関してあまり興味を持っていない英雄王としては、ただ単純に、自らの宝物に相応しい世界であるかを確認している行為であるらしい。
それにしても、今宵はやけに寒い様子だ。行き交う人々は、白い息を吐き、背を丸くして肩を震わせている。
冬の季節ではあるが、それにしても身体の芯から冷え込んでくる寒さなのだろう。

(まあ、英霊たる我には、関係のないことではあるが…)

今宵は天気が崩れそうだ、と云わんばかりに、ギルガメッシュは夜空を見上げた。
分厚い雲に覆われ、今にも雨か雪が降りそうだ。
大気も不安定なのか、ゴロゴロと雷鳴の轟く音がしている。

(ふむ…此の地のマナ共が、妙にざわついておるな。いや…空に向かって、凝縮しているような…)

雷鳴を伴う暗雲は、まるで渦を巻いているような形に見える。
この位置から見るに、それは最もマナの濃い霊地・円蔵山の方角だろうか。
ギルガメッシュは、興味深そうに円蔵山とその上空を見つめていた。

《王よ》

突如、ギルガメッシュの中に、重厚な声音が響いた。

「何用だ、時臣」

それは、此度の聖杯戦争にて、ギルガメッシュを召喚したマスター・遠坂時臣からの、魔力パスを通じた念話であった。
少々煩わしげに、ギルガメッシュは眉に皺を寄せる。

《御散策の最中、申し訳ありません。火急の報せがあり、このように伝令をと…》

「よい、述べよ時臣。まあ、大方のことは解しておるがな」

《流石は、王の中の王。
では、簡潔に述べさせていただきますが、現在、妙な魔力の流れが、この街全体に広がっております。
それも、彼の霊地・円蔵山に、その全てが集約されていっているのです》

どうやら、時臣もギルガメッシュと同様のものを見据えているようだった。

「やはりな。彼の霊地に、魔力…いや、マナそのものが集まっておる」

《はい。ついては、只今から調査を致したく…》

「待て。それには及ばぬ」

《は…》

「この我が、直々に赴いてやろう」

《お、王よ…宜しいのですか?》

「うむ、今宵は興が乗っている。
小間使いの真似事をするつもりはないが、何、このマナの流れ方は実に珍妙だ。この我の気を引くとは、実に興味深いものよ」

クク、と喉を鳴らし笑うギルガメッシュ。

《…分かりました。では、御頼み申し上げます、王よ》

「うむ、許す。邸にて待つがよいぞ、時臣」

妙なマナの流れに興味を唆られたギルガメッシュは、自身を霊体化させ、その流れに従うように、半ば意気揚々と円蔵山へと向かったのだった。


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