アイの翼

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冬至との二度目の死闘。
それは、東洋天界の神都をメチャクチャにしてしまう程に、大規模な神力のぶつかり合いとなった。
本来、元天使である冬至には、強大な聖力はあっても、神力はないはずだった。
しかし冬至は、自分の歩みの妨げとなる天使や悪魔の他に、自らの力の増強に必要だと感じた数々の神々を殺し、根こそぎその神力を奪っていった。
神を喰らえば、その身体には、神の力が宿る。
霊力や魔力、聖力などよりも、より直接事象に干渉できるのが、神力の特徴である。
神々の階級によって大小の力の差はあれど、その性質は、天使や悪魔などよりも遥かに秀でているのだ。

「…ッ」

そんな神力と、数々の人間から吸い上げた禍々しい霊力で増強した冬至の力は、最高神たるナツル神の力を以ってしても、互角に闘うことしかできなかった。
いや、未だ人間の肉体に縛られる、未熟な神の器たる夏流では、互角というには程遠かったように思える。
その証拠に、夏流の背中から生える、聖魔の翼で防御しきれていない場所の傷は、この強い霊力に満ちている虚園という世界でも癒しきれていないのだ。

「…はぁ」

この世界に飛ばされてから、丸二日は経っただろうか。
ここ虚園は常に夜らしく、時間の感覚が鈍くなる。加えて、夏流のいる部屋には結界が貼ってあるらしく、自力で情報を収集できそうもない。

(それに、これ…)

夏流の右足首には、強力な霊力の宿った足枷が付いていた。それも、唯一の出口である扉に、ギリギリ届かないくらいの鎖付きで。
仕方なく、夏流は広々とした真っ白なベッドの上で傷を癒すことだけに専念することにしていた。

(軟禁…なのかな、今の状況)

この虚園という世界に佇む巨大な城、虚夜宮の主だという男、藍染惣右介。
どうやら彼は、夏流を捕らえているが、今のところ殺したり危害を加える気は無いらしい。
ふらりと現れては食事を持って来たり、紅茶と共に対話をしに来たりと、警戒をしているのも馬鹿らしくなるような対応をしてくるのだ。

「おはよう、夏流。傷の具合はどうかな」

真っ白なドアが開き、藍染の姿が現れる。
後ろには、食事を運んで来たのであろう、真っ白な肌と黒々とした髪を携えた、角の生えた骸骨のような仮面を被った男がいる。
名を教えて貰ってはいないが、この男は藍染の従者らしく、藍染の命令によって、夏流の食事の世話や包帯の交換などをしてくれていた。
何故か男の主たる藍染も、常にその場にいるという、毎回奇妙な状況だが。

「食事の時間だよ」

「…ありがとう、ございます」

夏流は、警戒を怠ることはなかったが、飢えさせぬようにとの厚意には、素直に感謝を述べる。

「さあ、食事の前に、包帯を変えてしまおうか」

藍染は、後ろの男に視線を送る。

「はい、藍染様」

男は、それだけで藍染の意思を察するらしく、恭しくお辞儀をすると夏流に近付いた。


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