旧作 短編・中編

□雪とお前とバレンタイン
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「…さみぃ」

2月14日。
今日はそこら中のリア充共が浮かれ合う、バレンタインなどという菓子メーカーの仕組んだチョコレートの日。
俺も今までに貰った経験はあるが、そのどれもイマイチときめかねぇ。
普通なら、男として貰っただけでも喜ぶべきなのだろうが、好きな奴でもねぇ奴に貰った物なんざ、世辞にも喜びなど微塵も感じなかった。
俺は恋人とマイちゃんの載る雑誌を手に、近くにあったベンチに座った。
この時季だからか、いつも買っているグラビア系雑誌もバレンタイン特集をしている。
パラりと開いたページには、可愛い微笑みを浮かべている俺の恋人、夏流。
2歳年下で、俺と40cmも身長差があって、『性別不詳両性類』なんてコンセプトで活躍中の芸能人。俺との関係は、勿論誰にも秘密だ。
グラビア系の雑誌に載っているというのは、恋人としては些か、というか、すげぇフクザツな想いなんだが。
とりあえず、今月号の夏流も、今すぐ会ってキスして犯してぇくらいに可愛い。

「あー…最近会ってねぇな、夏流に」

曇天の空を見上げながら、俺は小さくつぶやく。
今にも雪が降りそうな、寒々とした空は、もう二週間以上も恋人に会っていない俺の鬱屈した心をそのまま映しているようだった。


―――会いてぇ、キスしてぇ……






―――抱きてぇ…


恋人同士になって、もう半年以上。
元々恋愛には興味も無く、寧ろ嫌悪感さえ抱いていた夏流は、キス以上のことをさせてはくれない。
いつも「抱かせろ。」とせがむと、不機嫌そうに眉を寄せて、「嫌。」と一言で拒否されてしまう。
強引に抱いちまえばいいものを、どういう訳か、俺は夏流相手だと強引に物事を進められない。
小さくて華奢すぎる体格の所為もあるのだろうが、アイツの過去を知ってからは、特に腫れ物に触るように扱っているような気がする。
特に、セックスの場合はそうだ。
強引にカラダを繋げて、アイツを傷付けちまうってことに、俺は相当怖がっている。


―――らしくねぇな、俺。


俺は携帯を取り出し、待受け画面いっぱいに表示されている、二人で撮った初めてのプリクラ写真を眺めた。


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