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□ベイビーブルー22時-typeC-
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捏造甚だしい不健全眉村。







「いらっしゃまいせ。」

扉が開く毎の台詞は想像以上に体力を使う。
レジに立ちっぱなしの両足には疲労。
練習の後なら当然だ。


プロ入りが決まった未来は華々しい。
そんな俺が、こんな錆れたスーパーで働くには訳がある。

「健くん、愛想良くね。」

「…はい。」

此処は知り合いの店で、都合良くシフトに入れるので自ら志願したのだ。

『契約金が入るまで。』を呪文のようにリピートし、女で一つで育ててくれた母親への恩返し。
まぁこれから嫌と言うほど恩返しをするのだが、これはその序章だ。

野球しか知らない俺が、良く言えばポーカーフェース。悪く言えば無愛想の俺が接客業など。
母さんの不安は見事に的中したが、何とかなっているので安心してほしい。

そんな健全な俺には、健全な楽しみがある。

閉店間際、混み出す店内に今日もヒールの音が鳴る。
俺の腹も緩くなる。


来た。

着慣れたスーツ。見るからに年上のその人は、ほぼ毎日店に来る。

いや訂正しよう。
俺がバイトの日には必ず来る。
肉やら野菜やらを買い込む様子から、自炊、そして一人暮らしの構図が安易に浮かぶ。

そう、俺の楽しみは、知らないお姉さんの購入品を盗み見る。と言う健全、極めて健全なものなのだ。


この店のレジは二つ。
お姉さんは決まって左側のレジに並ぶ。それを知ったその日から俺の定位置も左側。
御婦人には絶対にしないお釣りの手渡しも、お姉さんにはしてしまうほど青臭い。

ところが今日は違った。
左側ではなく右側のレジに並ぶお姉さん。

いつも決まって左側なのに。

「次でお待ちのお客様、こちらのレジにどうぞ。」

すかさず声を掛けてみても、お姉さんは自分の後ろに並ぶオッサン…いや殿方を促した。

俺の楽しみは無くなった。

殿方のレジの後、手持ち無沙汰になった俺はやんわりとお姉さんに目を向ける。

薄いブルーのレジ袋からうっすら透ける、紙袋。

紙袋。

新人の俺でも知っている。
紙袋に入れる代表物は、コンドームか、生理用品。

思わずお姉さんを凝視する。
お姉さんは生理中なのか、それとも誰かとセックスするのか。

前者であってほしい、でも後者も捨て難い。


落ち着け俺。
前者であるならば、お姉さんはまた右側のレジに並ぶ。

お姉さんはナプキン派なのか、タンポン派なのかが気になるところだが、その確認は無理だろう。
それならば、せめてお姉さんの、知らないお姉さんのデリケートな私生活を盗み見たい。


言いようのない衝動に駆られた俺は、店長にこの先一週間のシフト変更を願い出た。


いつの間にか腹痛は無くなっていた。







ベイビーブルー22時-typeC-
「限りなく深い青」様へ。

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