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□ビルボードの恋人
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此処から逃げたいと彼女は言った。
たくさんの重圧から逃げたいと、逃がして欲しいと。
先に結果を言えば、逃がす事はしなかった。
弱さを露呈する彼女に叱咤激励を、
したつもりだった。
まだ幼さの残る彼女には、叱咤、の部分しか届かなかった。
俺の言葉が足りなかったのか、彼女の理解度が低かったのか。
今となればどちらでもいい。どちらもあるだろうから。
その一件が原因とまでは言わないが、その件があってからは、これまで以上にすれ違いにすれ違いを上塗りし、久しぶりに会えばアンニュイの彼女に嫌気がさす事が常だった。
率直に伝えれば、ごめんなさい。と言葉を下げる。
だけど改善はされない。
彼女は、俺を苛立たせ、理解する事が出来ない女だった。
この地に来ると思い出す。
あの彼女は未だ、逃げ出したかったこの街にいるのだろうか。
知ろうと思えばいつでも知れる。
それをしないのは、あの時を後悔しているからか、小さいプライドか。
来る度に増える高層建築物に、彼女が隠されていく。
きっと彼女の事だから、何も言わず独りで耐えるのだろう。
あの時のように。
もしも時間が戻るなら、今度こそ一緒に逃げ出してしまおう。
それが正解ではないのかもしれない。
だけど独りじゃないだけマシだろう。
こんな事を考えてしまうのは、ビルの町並みに潜む彼女が安易に想像できるから。
今日もまた、見えない彼女へ想いが募る。
ビルボードの恋人