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□研ぎ澄まされた世界
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空は暗く、澱んでいる。



時間ギリギリまで話してわかった事は少ない。


終始楽しそうに笑ってくれた女に、それでもいいかと思う。






送る規定に従えば、部屋の手前で立ち止まる。


「どうした?」


「ここでいいよ。」


もう部屋は見えている。


「すぐそこだぞ?」


女の手を引く。
規定を破れば、ペナルティーがあるだろう。


「ホントに。ここまでがいいの。」


「いや、それじゃ…。」


「そのかわり、お願いがあるの。」


最後に優しくキスしてよ。
恋人にするみたいに。






全てを悟った女の我が儘を断ることなど出来る訳がない。



指先まで傷だらけの女が、これ以上傷付かない様に触れるだけのくちづけを。



はにかむ女が言った。



もう、こんな所に来ちゃだめだよ。



軽く手を振り、女は消えた。


触れたくちびるが熱を持つ。






あの部屋に行けば、また会える。


でも、会ってはいけない。
俺の為にも、あの女の為にも。





澱んだ空に、星は無い。



来世では幸せになって欲しいと思う。


来世では幸せにしてあげたいと思う。





せめて、同じ世界で会いたかった。








研ぎ澄まされた世界

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