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□研ぎ澄まされた世界
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向かった先は安いモーテルで、女は慣れた手つきでチェックインする。
会話は無い。
はっきり言っておくが、俺は女を買う趣味はない。
ただ大人になれば嫌な付き合いも増える。
今回もその付き合いの一環だ。
「シャワー浴びますか?」
初めて聞いた声は、思ったより低く、甲高い声よりはずっと落ち着いた。
「いや、俺はいい。浴びるなら行っておいで。」
言葉が終わると、女は躊躇なく服を脱いだ。
「はじめましょうか。」
ムードもクソも無いな。
小さく息を吐き振り向けば、女がベッドの脇に座っている。
その身体には無数の傷痕。
「な…っ」
驚きを隠せない俺に女は言った。
「ああ、ご新規さんですもんね。知ってると思った。」
世の中にはこういう女が好きな男がいっぱい居ますよ。
「…付けられたのか?」
「いえ、此処に来る前からですよ。どうしてこうなったのはわかりませんが。」
店主の言った意味がわかった気がする。
この女は存在自体が曖昧なんだ。