UTA☆PURI

□月籠
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春歌ちゃんと二人で,夜の海に浮かんだ手紙を見送った。

波に攫われていくさっちゃんの最後の言葉を。

もうさっちゃんはいない。僕がさっちゃんの存在に気づいてしまったから。

一つの身体に二つの心は入りきれなくて,さっちゃんは僕が壊れないように,消えることを選んだ。

僕が小さな頃,さっちゃんは僕の悲しみや負の感情を受けとめるためだけに生まれた。

大好きだった先生に裏切られて,哀しくて哀しくて泣いていた僕の中に生まれた温かな光。

それがさっちゃんだった。でも僕は,さっちゃんの存在に,悲しみに気づいてあげられなかった。

さっちゃんが僕のことを守ってくれていることに,僕は気づけなかった。

それを気づかせてくれたのは,春歌ちゃんだった。

春歌ちゃんに拒絶されて,すごく哀しくて全てを拒絶していたあいだ,おもてにはさっちゃんが出ていた。

さっちゃんは僕を守るために春歌ちゃんに酷いことをたくさんしてしまったと,後悔していた。

二つの心が一つになって,今までに感じることが出来なかった感情が感じ取れるようになった。

それは,僕にとっては物凄い変化で,まだ身体がついていかないこともある。

いままではさっちゃんが受けとめてくれていた,僕に対する周囲の期待,失望,怒りや妬み。

それら全てがダイレクトに僕の心へと入ってくる。

重くて苦しくて,潰れてしまいそうになることもある。

今まで受けとめてくれていたさっちゃんは,もういない。

僕に向けられた物は全て僕自身の力で受けとめて,処理しなければいけない。

今までの僕だったら,多分無理だった。

でも,今はもう大丈夫―一人じゃないから。


「春歌……」


柔らかい月明かりが小さな身体を照らして,幻想的な光景を生み出す。

隣に眠る最愛の人の姿を見て,心の奥が温かくなった。

さっちゃんはもういないけれど,感じることはしないけれど,僕には彼女がいる。

もちろん,さっちゃんも消えたワケじゃない。ちゃんと僕の中にいるんだ。

二人で幸せになるって,決めたんだ。

二人で,春歌ちゃんを幸せにしようって,約束した。


「可愛い……ねぇ,さっちゃん。僕たちの恋人は,こんなに可愛いよ。可愛くて,強くて……」


僕の腕の中でくぅくぅと眠る春歌ちゃんは本当に可愛くて,思わずギュッと抱きしめてしまいたくなる。

でも,せっかく気持ちよさそうに眠っているのを邪魔するのは,良くないよね。

抱きしめるのは,彼女が起きるまで我慢しなきゃ。


「んぅ……那月,くん」


「あ,起きちゃった?ごめんね,うるさかったかな」


眠っていたと思っていた春歌ちゃんが腕の中でもぞもぞと身動いで,まだ眠そうなとろんとした目で僕を見つめた。

可愛い。本当に,可愛いよ。


「いえ……那月くんの声は,すごく綺麗で,きもちいいです」


ぽつぽつと小さな唇から零れる言葉は今にも消えてしまいそうなくらい小さな声で,とても眠そう。

寝ぼけているのかな?


「そう?だったら,少しお話ししようか」


「はい……おはなし,しましょう」


僕の言葉を受け入れて,ニッコリと笑う春歌ちゃん。

窓の外から聞こえてくる波の音は優しくて,空にはキラキラと輝く星々に,日本では決して見られない,サザンクロス。

海の色は今は夜だから濃紺で,空と海の境目が分からなくなるぐらいに空と同じ色。

でも朝日が昇れば透き通るようなスカイブルーに変わる。

ここは僕の大好きな場所で,さっちゃんが生まれた海。

さっちゃんの名前”砂月”は,昔僕が大好きだったバイオリンの先生に聞かせた,僕が作った曲のタイトル。

子どものこと家族でこの海を訪れて,僕は砂浜で砂のお城を造った。

けれどそれは波に攫われてしまって,跡形もなく消えてしまった。

空に浮かぶ月と濃紺の海。そして,儚く消えゆく砂の城。

それがあまりにも綺麗で,曲にせずにはいられなかった。

そして出来上がったのが,砂月。

大好きな先生に裏切られて傷ついた僕の心を守るためだけに生まれたもう一人の僕,砂月。

僕を守るために,僕へ向けられる負の感情を全て受けとめて,全力で僕を守ってくれた僕に一番近い存在。

その彼は,僕は春歌ちゃんと一緒に生まれた海へと帰した。

この場所へ帰すことで,本当の意味で一つになれるような気がしたから。


「那月くんは,砂月くんがいなくなって,恐くありませんか?」


「恐くありません。だって僕には春歌ちゃん,あなたがいるから。それに僕とさっちゃんは一つになったんです。

だから平気なんですよぉ」


とろとろと眠そうな声で問いかけてくる春歌ちゃんの言葉が,心の中にじんわりと広がっていく。

恐くないと言ったら嘘になる。

でも怖がっていたら,さっちゃんに怒られてしまう。

僕が頼りなかったら,春歌ちゃんに心配させてしまう。

僕はさっちゃんみたいに強くはないけれど,僕は僕の強さで彼女を守っていくと決めたんだ。

それが,消えていったさっちゃんとの約束。


「ックシュ」


「春歌ちゃん,寒い?お洋服着ようか?」


僕の腕の中にスッポリ収まっている細くて小さな身体は,生まれたままの姿。

僕も彼女と同じで何も身に着けていない。

さっちゃんの手紙を海に流したあと,僕たちはハンモックの上でのんびり星を見上げて,僕は春歌ちゃんの瞳に映る星空を見ていた。

隣に感じる彼女の体温が心地よくて,最初のうちは手を握っていたけれどもっと彼女を傍に感じたくて。

それに気づいた春歌ちゃんは真っ赤になりながらも僕にギュッと抱きついて,耳元で,大好きって言ってくれた。

それで,理性が切れてしまった。

さすがに外でするのは春歌ちゃんが可哀相だったからコテージに戻って二人でシャワーを浴びて,シャワーを

浴びただけでくたくたになってしまった春歌ちゃんをベッドに運んで,そこから先はぼんやりとしか覚えていない。

覚えているのは,僕の掌が触れるたびにあがる春歌ちゃんの甘い声。

繰り返し僕の名前を呼んで,背中に爪を立てて。

きっと僕の背中には細い線状の跡がたくさんついていると思う。

そして,とろけてしまいそうなほどに熱い,彼女の熱。

理性は切れいていたけれど彼女を気遣うことだけは忘れていなかったみたいで,僕はうんと時間を掛けて彼女の中を解した。

春歌ちゃんの中は本当に熱くて,動くたびに聞こえてくる甘い甘い声と背中に走る小さな痛み。そして,僕の名前を呼ぶ声。

何度も何度も抱き合って,疲れて眠って。

そして,目が冷めて,僕は小さく身体を丸めて眠る春歌ちゃんの寝顔を眺めていた。


「大丈夫です……」


「でも,風邪引いちゃうよ?」


「……その,お洋服はいらないので,その,えっと」


「春歌ちゃん?」


とろとろと目蓋が落ちてきて,今にも眠ってしまいそうだ。

けれど彼女は眠いのを必死に堪えて,何かを言おうとしている。


「お洋服よりも,那月くんが,いいです」


「僕?―ああ。そっか,ふふっ」


再び眠りに落ちてしまいそうな春歌ちゃんを腕の中に収めて,ギュッと抱きしめる。

素肌が触れ合って,お互いの体温がさっきよりもうんと近くなった。

春歌ちゃんの身体は白くて柔らかくて,フワフワとしている。

お互いの身体の間でふにゃりと形を変えている柔らかな胸は本当に綺麗で,思わず舐めてしまいたくなる。

さっきそれをしたら春歌ちゃんは一際高くて甘い声をあげて,身体をビクビクと跳ねさせていたから,よっぽど気持ちよかったんだろうなぁ。

また今度してあげよう。

脚に当たる太腿もスベスベしていて気持ちよくて,脚の間で挟むとじんわりと温かさが伝わってくる。

人の脚を挟んで眠るのって,どうしてこんなに気持ちが良いんだろう。

春歌ちゃんだからかな?

僕の胸に顔を埋めて満足そうに笑っている春歌ちゃんの髪の毛にちゅっとキスをすると,ふわりとお花の良い匂いがした。

僕と同じシャンプーを使ったから,同じお花の香り。

けれど春歌ちゃんの髪からするこの香りは僕のよりもずっと甘くて,その香りを胸一杯に吸い込むと,その甘さに脳内がじんと痺れた。


「那月くん……?どうか,しました?」


「いえ。春歌ちゃんはかわいいなぁって」


「那月くんは,格好いいです…那月くんも,砂月くんも,格好いいです」


「ふふっ。それを聴いたら,きっとさっちゃんは照れちゃいますね」


「そうですね……砂月くんのことだから,きっと顔を真っ赤にして,そっぽ向いちゃいます」


「さっちゃんは照れ屋さんですからねぇ」


「那月くんも,照れ屋さんですよね」


「え?」


「だって,那月くんは砂月くんで,砂月くんは,那月くんですから……」


ふんわりと笑って,彼女は目を閉じた。間もなくして聞こえてきた寝息を聞きながら,僕は胸の中でさっちゃんに呼びかける。

もう決して答えてくれないけれど,聞こえているはずだから。

ねぇ,さっちゃん。

僕たちの恋人は,本当に強いね。

僕が不安に思っている事なんてお見通しだったよ。

僕は,強くなれるかな。

彼女を守れる,強い男に,なれるかな。

ねぇ,さっちゃん―


― 泣き言言ってんじゃねーよ,バーカ ―


あ……さっちゃん。

一瞬だけ聞こえたさっちゃんの声はすぐに消えてしまった。

けれど,しっかり心の中には刻まれていた。
ぶっきらぼうだけど優しくて,心から僕を思ってくれている優しい存在。

僕を守るために生まれた哀しい存在。

今までたくさん,辛い思いをさせちゃったね。ごめんね。

でも,もう絶対に哀しませないよ。

二人で強くなろう。

春歌ちゃんの為に。

幸せになるために。

窓の外には満月が浮かんでいて,柔らかい月明かりが部屋に差し込む。

その月明かりに照らされた僕たちはまるで,月のベールに包まれているみたいだ。

月のベールに包まれて,このまま朝まで眠ろう。

三人で,波の音に身を委ねて。


「おやすみ。春歌,砂月……いい夢を」






月籠〜つきごもり〜




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那春FD大恋愛エンドが大好きすぎて困る!!

恋愛エンドも良いけど,膝枕も良いけど…音也も膝枕やってもらってたしなぁ。

まー様は……膝枕してもらってもキャラ的に大人な展開になっちゃそう。ムッツリだし。

大恋愛エンドはラストのさっちゃんの手紙を二人で海に流すシーンがうるっときたっ!

そして最後のなっちゃんの言葉!

『二人で,幸せになろうね……さっちゃん』

……うわぁあぁぁあぁぁぁあああ!!!

好きだっ,好きすぎるよなっちゃん!!

もうこの二人は双子で良かったと思う!双子が二組になるじゃん,とか言うのは無視!

キャラかぶりしないから良し!

双子だったらさっちゃんは四六時中なっちゃんにベタベタしてそう。

そしてなにげに音也と仲良さそう 。
 

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