rong

□始まりは…
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一人何をするでもなく海を眺めていた。

家から電車に揺られて数十分。


逢摩市の隣にある牛三市の海岸で

海水浴にはまだ少し肌寒い時期。

砂浜に私は腰を降ろしていた。



両親は少し前に他界し、莫大な遺産だけが一人っ子の私に残った。

今は安いアパートに一人暮らしをしている

私、神原葉月は高校も行かずに毎日をぼんやりと過ごしていた。

高校に行かないから落ちこぼれというわけではない。

中学の頃の友達とはまだ遊んだりするし

気が向けばバイトをしたりもする。

性格は一段と大人しいわけでもない。


現代では少し珍しい高校に進学しないで気ままに過ごしている生活。


暇なのでこうやって気ままに散歩に出たりする。




今日もそんな普通な毎日をのんびりと過ごしていた。




『泳ぎたいなぁ〜…まぁ浮き輪でプカプカしてるだけなんだけど』


どっこいしょともう既に中年のおばさん並みの口振りで立ち上がり


やることもないから仕方ない。

ゴミ拾いでもして綺麗な海に少しでも貢献しようと

駅のコンビニでお菓子を買った時のビニール袋を広げた。




『空き缶を集中的に……うわっ!!くさっ!!!』



「そんな事をして楽しいのか?」




『―…え?』




後ろから声をかけられ振り向くと…何じゃありゃ。


明らかにこの砂浜には不似合いな格好の青年が訝しげにこちらを見ていた。

顔の半分はフジツボがついたヘルメットを被り、

黒いスーツの上は変なデザインのコートを纏っていた。


「お前一人がそんな事をしても綺麗になるわけがないのに」

『ただの暇つぶしですよ。しないよりはした方がいいじゃないですか。綺麗な海なんだから』

「人間は地上で生活しているんだから海なんて放っておけばいいだろう?」

『母なる海ですよ?魚やら何やらで私達はお世話になっているじゃないですか。』


さっきから何だこの人は。

死んだような真っ暗な瞳で私を見つめる青年は依然手伝うでもなく、

ただただ私の行動を観察しているだけだった。


そういえばこの青年はどこから来たのだろう?

浜辺の駐車場には車は一台もなく、失礼だけどこんな根暗そうな人が犬の散歩ってわけではなさそうだ。

せっせと作業するなかでふとその青年の足元を見れば

その青年の付近は少し水溜りのシミができていた。



……―まっまさか!!


泳いだ?!いやあの死んだ魚みたいな目!!


自殺未遂?!



「……何か言いたそうな顔だが」



『……いえ、…………人生長いですよ』


「何か大きな勘違いをしているようだな」

『…寒中水泳でも?』

「……チッ」


いや今なんか音したよ

反抗期の中学生並みの態度だよあの人!!
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