☆ナギ☆

□very lucky person
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「じゃ、俺は買い出しに行ってきますから」

「おう。ナギ。ついでに例の酒、頼んだぞ」


頷きながら船を降りるものの・・・
さて、どうしたものか。


船長に頼まれた酒は
よっぽど運が良くなくては買えない


何故なら、製作本数が絶対的に少ないからだ


入荷した途端、売り切れる事も
多々あると言う


酒屋のマスターの常連ならまだしも、旅の合間に寄るだけの俺に、その貴重な酒を手に入れる事はできるだろうか?





「very lucky person」〜ナギの強運〜



「はぁ・・・」


似合わずため息を漏らす

リクエストされたものは絶対に手に入れたい





「ナギに頼めば出てこない料理はない」





船長に限らず、他の船員からも
そう思われている俺



変化の少ない海の上の生活

せめて船員の望むもの位、好きな時に
食べさせてやりたい


それが俺のプライド・・・というかポリシーだ





「お。こんな所に鮮魚か・・・」




店に並べられた魚に目をやり、隅々まで
その体を観察する




(目の色は・・・鱗に傷は無いか・・鮮度・・よし!)



「親父、この魚をくれ」






指差しながら数匹、目を付けた魚を
店主に包んでもらう





「へい。まいど!」




店主から魚を受け取り、魚料理のアレンジを考えながら次の店に移動していると、視線の外から不意に声を掛けられた






「お兄さん。そこのお兄さん」






一瞬、自分の事を呼ばれたとは気付かず
通り過ぎそうになった


小さな机の前に座っていたのは、黒い
フードをかぶった小さな老婆






「ちょいと、寄って行かないかい?」




にっこりと笑うと、目の皺が曲線を描き、口元から白い歯が見えた

ところどころ、歯が足りないみたいだ






「悪いが、占に興味はないんだ」




水晶玉がキラリ、と光る


一見しただけで、その老婆が行商の占やだと言う事はすぐに理解できた





「はぁ・・・そうかい」




残念そうに老婆はため息をつくと、
ゴソゴソと箱の中から何かを取り出す




「!!!」




驚いた


それは、俺が船長から頼まれていた幻の酒


その酒に目を奪われ固まったまま
立ちすくんでいると、老婆がニヤリ、と笑う


隙間の空いた歯が、こちらを見ていた






「この酒が欲しいのかい?」


「ああ・・・それ探してたんだ」



「では、こうしよう。占いを
受けてくれるならこの酒を付けるよ」


「・・・わかった」






船長の為だ。仕方がない。

老婆の手に促され、俺は小さな椅子に
腰かける


見れば見る程、小さい婆さんだ

肌艶も良い。

ふくよかな頬が生活には困っていないだろう、と言う事を想像させた





「何を占ってくれるんだ?」


「なんでもさ。お前さんが望む事を、教えよう」




何でも・・か・・・

暫く考えた後、俺は「まかせる」と老婆に言った


自分が望むもの。

それがなんなのかも
よくわからなかったからだ。






「ちょいと、掌を見せておくれ」




老婆の目の前に両手を広げると、
深い皺を精一杯持ち上げた老婆の目が
俺の掌を覗き込む


怖ぇ・・・

その形相にちょっとビビった


なんか別の生き物みたいだぞ






「こりゃあ・・・」



掌の線をまじまじと見つめた老婆は、
元の表情に戻って
自分の小さな椅子に腰かけた



「アンタ、数百人に一人の強運の持ち主だ」



皺皺の口元が愉快そうにそう言い放った




「ふーん・・・(強運、ねぇ・・・)」



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