鏡ちゃんと先生

□鏡ちゃんと先生.8
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私は先生に言われたスーパーへ向かっていた。

方向音痴な先生とどこかで待ち合わせというのは難しいので念入りに"その場から動くな"と言い付けて家から出てきた。

先生の方向音痴っぷりにはもう脱帽する。
家からそう大して離れてもいないスーパーで迷子になれるのだからもはや一種の才能ではないかと疑うくらいだ。


で、先生が私の番号を知っていたのはおそらく、いや間違いなく浅原の仕業だ。
「はぁ…」
私は暗い夜道をひたすら先生の待つスーパーへと急いだ。









スーパーが見えてくると、電話で約束した通り先生はスーパーの出入口の近くに立っていた。
私に気がつくと先生の曇っていた顔が一気に晴れやかになる。犬かっつーの。

「なんでこんな近場で迷子になれるんだか」
皮肉っぽく言うと先生は思い切り不機嫌そうな表情になる。
誰だ、最初の最初に先生のことクールっぽいとか言ったの。私だ。
そんなアホなことを考えながら先生を見る。
まだ不機嫌そうだ。

「いつまで怒ってんの」
先生はムスッとして口を尖らせていた。
私はケータイで時間を確認する。21時12分と結構遅い時間だった。

私はなんの躊躇いもなく先生に手を差し出した。
「今からこの辺りは人が多くなる」
帰宅ラッシュに遭うからだ。はぐれたらもう捜すの面倒臭い。

しかし手を見つめたまま動かない先生。
「…な、なんだか恥ずかしい…」
近場で迷子になるより恥ずかしいことなんかないから。
「早く」
私は強引に先生の手を引いて歩き始めた。
先生も戸惑いつつも繋いだ手を握り返してきた。

私は今更になって少し後悔したが、もう遅く手から伝わるぬくもりに胸がざわついていた。


温い手だな…





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