鏡ちゃんと先生

□鏡ちゃんと先生.7
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1時間目終了のチャイムが鳴ると先生は私を一瞥してから嬉しそうに教室を出て行った。
私が授業を聞いていたことがそんなに嬉しかったか。

「藤咲さん、やっぱりお勉強もお出来になるんですね」

声を掛けてきたのはやっぱり隣の女子だった。
改めて見るといかにもお嬢さまと言った女の子。黒塗りの髪がよく似合う、いうなれば日本人形のような容姿をしていた。

『そんなこと…ないよ』

たまたま、と付け加え私は席を立った。どうにもこの雰囲気は苦手だ。
私と彼女が話していることでクラスの子がこちらに注目してくる。

早足で教室を出ながら、慣れないことはするものじゃない、と何ともいえない微妙なため息が出た。


休憩時間、どこへ行く当てもなくふらふらとしていたら後ろ袖を引かれた。

「どこ行くのよ、1−Fは今から英語でしょう。逃がさないわよ?」

出たよ。
このお節介新米教師が。

『別に、サボるつもりなんてなかったよ』

ただ教室にいるのが落ち着かなくてブラブラしていただけだし。
そういっても先生は全然納得してくれない。

私の腕を掴んで1−F、私の教室まで連れて行かれる。
結局このパターンですか。私はため息を吐きながらも足の長い先生について歩いた。

『…』

「藤咲、ちゃんと食べないとだめよ?」

不意に発せられた言葉に私は虚をつかれた。
訝しげな表情で先生を見ていたことだろう。しかし先生は私に背を向けていたので多分私の表情など知らない。同様に私も先生がどのような表情でそんなことを言っているのかは知る由もなかったのである。


『……』

その後、私は何も言えないままにそのまま先生の後をついて教室まで行った。





教室に入るとクラスの全員に異質な目で見られた。
まぁ、それは仕方ないか。
こんなデカイ先生に連れられて不良が入ってきたら皆見るよな。私だってちらりと見てしまうかもしれない。…いや、見ないかも。

『離せよ、方向音痴…』

ボソッと呟いた言葉に先生はボソッと呟き返した。

「好きで方向音痴なわけじゃないわよ」

そりゃそうだろ。
私は先生の手から逃れると自分の席まで戻って机に突っ伏した。
あーあ、教室では視線が痛いし教室を出れば先生に捕まるし。いいことないなぁー…

そして予鈴が鳴る。
私は机の中を探って英語の教科書を探すが、なんと入っていなかった。
なんでこうタイミングが悪いかな…

私は仕方なく隣の子に声を掛けて見せてもらうことにした。

『ごめん、教科書見せてくれないかな』

「あ、はい。いいですよ」


笑顔で快く頷いてくれた彼女は机をがたがたと動かして私の机とくっつけた。
ホッとして席に着き、前を向いた瞬間先生と目が合った。

…何故か先生は凄まじい形相でこちらを見ていた。
笑顔、だと思うけどあれはどこからどう見ても笑っているようには見えなかった。


先生の授業で教科書を忘れたのが間違いだった。
先生は忘れたことに対する嫌がらせなのかわからないが、授業中私は何度も先生にあてられた。


「じゃぁ、ここを藤咲」

『……。』

最後のほうは私ももう諦めていた。



珍しく学校へ行くとやはり珍しいことが起きるものだ、と私は今日一日で痛感した。




fin


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