鏡ちゃんと先生

□鏡ちゃんと先生.9
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ジャージを身に着けた私は女の子の流れに沿って体育館へと向かう。
今日の体育は体育館でバスケットボール。バスケなんて本当に何年ぶりにやるんだか。
私はそんなことが言えるくらいに体育という授業に参加していなかった。体調的にも体力的にも足手まといになるのは嫌だったし、なにより中学生のころは体育の先生(男)がものすごく嫌いだったということもある。

「おはようございます、藤咲さん」

声をかけてきたのはクラスで隣の席に座っている大和撫子。名前は…わかんないや

私はふと彼女の来ていた体操服を見た。その体操服には桐生と書かれていた。つまり彼女は桐生さんということになる。

「きりゅうさん?」

桐生さんは笑って頷く。どうやら読み方は間違っていないようだ。

「桐生京都です」
きりゅうみやこ。それが彼女の名前らしい。日本っぽくて大和撫子に似合っている名前だと思った。
私はぶっきらぼうに頷くことしかできなくてなんか申し訳ない気持ちになった。

「あ、呼ばれてるみたいですよ、行きましょう!」


「あっ…」

不意に手を取られ私は連れて行かれるように桐生さんについて行った。




先生に集められバスケットのチーム分けが行われた。私のチームは名前もわからない3人と先ほど名前を知った桐生さんと私の5人。正直桐生さんがいてほっとした。
久しぶりの体育でぼっちは辛いものがある。

「頑張りましょう!みなさん」

桐生さんは1人とても張り切っている。3人は私をちらちらと見てヒソヒソと何やら話をしている。まぁ、そんなものだよな、私の評価なんて。私は少し息を吐いた。

「藤咲さん、バスケットはお得意ですか?」

「…いや、普通だと思う。」

桐生さんはなんでも元バスケ部だったらしい。そのようなことをいろいろと教えてくれた。そういえばこうして同級生とまともに会話をしたのも久しぶりだな…。


「あ、私たちの出番ですよ!頑張りましょう」

私は桐生さんに少し遅れてコートに入った。相手チームには現役が2人いるようだ。明らかに凡人とは構えが違う。
…お手柔らかに頼むよ…。

ゲームが始まると早速相手側に先制点を取られた。やっぱ現役には敵わんて。

「藤咲さん!」


気が付くとパスが回ってきていた。桐生さんからのパスは少し強くて手がジーンとした。

ドリブルをしてみる。感覚が懐かしい。昔はよく家の外でバスケをしたものだ。
私は昔の感覚でドリブルでターンなどしてみようと思うがボールをけってしまった。

「ドンマイですよ!藤咲さん」

肩をポンとたたいて微笑んでくれる桐生さん。私の胸の奥が熱くなった気がした。

失敗したまま終わりたくないという一心だったみたいだ。
自分でもこんなに熱い感情がまだ残っていたことに驚いた。




何度かボールを扱っているとそれなりに昔の感覚を思い出してきた。
ターン、フェイク、すべてが懐かしい。

久しぶりに楽しいという感情が広がった。
私は桐生さんとコンビで現役にも負けない活躍をした。2人で数分で数十得点稼いだが私たちのチームは少しの差で負けた。

ゲームが終わるころには私はヘトヘトで、今にも倒れてしまいそうだった。
「お疲れ様です!私驚きましたよ〜、バスケットお上手ですね」

コロコロと笑う桐生さんも私と同様に結構な汗をかいていた。

「・・・」

疲れたのにとても心地よくて、どうしてか先生の顔が浮かんだ。頑張ったんだって、伝えたい。なんてそんなバカげたこと考えてしまった。あほだ。アホすぎる。今すぐ自分を殴ってやりたい。

だけど存外嫌な気分ではなかったのだ。





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