鏡ちゃんと先生

□鏡ちゃんと先生.7
1ページ/2ページ


先生の家に泊まって、とあるきっかけでタバコがばれて。何故か一緒に学校へ行くことになってから数日がたったある日。


私は単位のためにきちんと学校へ来ていた。
朝の電車ではイヤホンでがんがんに音楽をかけ、無駄な雑音が入らないようにと努めた。

「最近藤咲さん、遅刻しないのね…」

席について外を眺めていたらふとそんな言葉が耳に入った。
陰口、というわけでもなさそうだ。

私は聞こえてくるままに、こそこそと話している会話を聞き入れた。

「…は、よろしいのですけど…近寄り…んですよね」

ところどころ聞こえないのは風の悪戯だろうか。私は目を閉じて頬杖をついた。
1時間目の予鈴と共に教室の中はザワザワと静かになっていった。


1時間目は数学。
確か単位が足りていなかったはずだ。私は教科書を机から取り出しぱらぱらとめくって見た。
今どこの単元をやっているのかさっぱりわからなかった。

「20ページあたりですよ」

隣から声がした。
そちらに顔を向けてみると、クラスメイトの女子が私のほうに声を掛けていた。
驚いたな。まだ私に声を掛けてくるような変わり者がいたのか。

変わり者だなんて、私に言われたくはないだろうが私に声を掛けるという行為にはそれくらいの意味があった。

『…ありがとう』

私は素直にお礼を言うと20ページを開いた。
すると今度は笑い声が聞こえた。隣からだ。

「藤咲さんはもう少し怖い人だと思っていましたわ、ごめんなさい」

私はきょとんとしてその女の子を見ていた。
名前も知らない、女の子。

『…』

私は返事をすることも出来ず、そのまま本例と共に隣の席の女の子との会話は途切れた。



授業中、始めは先生の話を聞いていたものの教科書を読めばわかるような問題の応用をやっていたので退屈で外の眺めばかり見ていた。
特に変化のない外を眺めるのは個人的に落ち着くのだ。

それまでずらずらと数学の応用問題の解き方を説明していた先生が話すのをやめたので私は無意識に黒板のほうを見つめた。
すると、何故か数学の先生と目が合ってしまう。

目が合うのは気まずいので苦手なのだが先生は驚いた目を見開いて私から視線をそらさない。
私も視線がそらせないまま、数秒が過ぎて耐え切れなくなった私は不自然に目をそらした。

「…そ、それでは前の問題を……」

途切れ途切れに言葉をつむぐ先生。
やっとこの気まずい雰囲気が壊れたかと思いホッと胸をなでおろした瞬間

「藤咲さん」

『……』

うそだろ。
と言う驚愕と落胆。
起きていることも珍しい私が先生を見ていたことがよほど嬉しかったのだろう、数学の先生は爛々とした目で私のほうを見ていた。

幸いページ数は教えてもらっていたし、教科書は読み進めていたので前に書いてある応用問題も答えられる。
私は内心でため息を吐きつつ静かに席を立って黒板の前に立つ。
この学校に入って初めて持つのではないかと思われるチョークを持ち、応用問題を先生の望んだ順序で回答へを導いていく。

6行に及んで書かれた数式は書き終わった後見ると少し斜めでかっこ悪かった。

「はい、完答ですね」

私はチョークのついた手を気にしながら席に戻り、再び視線を外に向けた。
なんだか不思議な感情が心の中でうごめいていて何とも気持ちの落ち着かない1時間目だった。








.
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ