鏡ちゃんと先生

□鏡ちゃんと先生.5
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淡い意識の中、物音がした。
ふわふわとした意識が次第にはっきりしてくる。

香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる、そんな匂いで目が覚めるなんて初めてだ。

私は寝ぼけ頭に身体を起こしてあたりを見回す。

『……あぁ、』
そうだった、また忘れていた。私は昨日浅原のせいで大変な目にあったんだ。ここは、先生の家だ。

「あら、もう起きたの?おはよう、藤咲」

声がかかりビクッと体がはねた。…びっくりした
顔を上げるとキッチンがあるところから先生が顔を出して笑っていた。
壁にかかっていた時計を見るとまだ6時ちょっとすぎで、まだ寝れると思い手を床についた。


ガザ、と音がする。何かをつぶしてしまっただろうかと私は手をついた位置に視線をやるとタバコのケースとライター、ケータイが散らばっていた。
それらを見た瞬間、眠気などもろもろ吹っ飛んでしまった。

先生が私に気がついているということは…
この散乱した私の唯一の荷物も見られたことだろう。

私はやるせない気持ちと何とも言えないこのもやもやした感情を俯くことによって押さえつけた。



「藤咲、藤咲…!」

『何?』

先生の声に再び顔を上げると先生はキッチンから皿を突き出していた。取れということか。

私はついた手のそばにあったタバコやライターを無造作に掴みポケットに入れると立ち上がった。

皿を受け取り机に置く。中身はレタスを基準としたサラダ。少しレタスの量が多いような気もするけれど、そこは何も言うまい。

「藤咲、これも」

先生は人の名前をよく呼ぶ。私はあまり名前を呼ばれるほうではないので新鮮だったりする。
名前を呼ばれたとして、それは浅原や冬子先生だったりクラスメイトだったりなので”藤咲”と呼び捨てにするのは先生くらいのものだ。

『うん』
タバコのこともあり、私はいつもよりどこか素直でどこかおびえていた。

「よし、じゃぁ少し早いけれど食べましょうか」
朝ごはんを食べるなんて何年ぶりだろう。
家にいた頃も中学にあがって少ししてからは家にいるのがいやで早く学校へ行っていたから朝ごはんなんて食べてなかった。
もちろん1人暮らしをし始めてからも私が作らなければ誰も作らないので朝ごはんは食べてない。

浅原がパンを持ってきた、なんてことはなんてことはあるがそれも昼食になり結局朝食にはならなかった。

「早く座って」

先生は私の隣を通り過ぎ机について座った。
この家は椅子ではなく床派らしい。うちもだけど。

私は先生の反対側に座った。先生が手を合わせる。

「藤咲もやるの!」
『?』

手を合わせてじっとこっちを睨んでいたかと思えば急にそんなことを言い出した。
もしかするとこの人は私にも手を合わせろといっているのだろうか?

『……』

手を合わせてみると先生は満足そうにいただきますと言う。私も後についていただきますと呟いてから朝食に手をつけた。

朝食は昨日同様に、おいしかった。









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