鏡ちゃんと先生
□鏡ちゃんと先生.4
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risako-side
『どこ行ったのかしら』
私は目の前に置かれた自分の作った料理を見つめた。
多い。それにしても多い。
味はいいと自分でも思うが幾分量が多い。
花はすぐに帰ってくるだろうから、と私はそのまま机の前で座って頬づえをついて学生時代の先輩の帰りを待った。
花が出て行ってから約30分。私は何をすることもなくただずっとぼーっとしていた。
インターホンも鳴らさずドアが開き、どたばたと足音が聞こえる。
何故か会話のような声が聞こえる。
花一人だけならばそんな会話が聞こえるはずもない。
私はリビングのドアを開けて花を迎えに出た。
案の定彼女は廊下にいた。
『ちょっと、この料理を残してどこへ…って…』
それよりも聞きたいことが…!
「あんたの馬鹿多い料理、女2人で食べきれるわけないでしょ、馬鹿」
花はそういって私のほうへ歩いてくる。
『そうじゃなくって、って馬鹿馬鹿言わないでよ』
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いの馬鹿」
学生時代の頃から花にはお世話になりっぱなしで口げんかにも勝ったことがない。
そりゃまぁ相手は先輩だし。昔は敬語で喋ってたからっていうのもあるんだけど。
「あ、そうそう。それで助っ人を連れてきたのよ」
花はそういうと後ろにいた人物を乱暴に手前に出した。
そこで、私は見慣れた姿に絶句した。
明るめの茶髪にピアス3つ。細い。いつもは制服姿をみているからか薄着な私服が新鮮だった。
『どうして藤咲が!?』
私はついパニックになった。
どうして藤咲が私の家にいるの!?そして更にはなんで花がつれてくるの!?
意味わからないことだらけで私の頭はこれまでにないほどの混乱をきたしていた。
私の混乱とは逆に藤咲はいつもの無表情を崩さず冷静を保っていた。
「うっさいわね馬鹿。これは私の教え子よ」
花はそういえばあの学園の中等部の数学教師だった。
それならば納得もいく、けど…。どうして今つれてくるんだろう!?
「あんたが鏡の話ばっかりするから連れてきたわよ、この子それなりに食べるから丁度いいと思ってね」
花はそういうと藤咲をつれてリビングへと入っていった。
私もあわてて後を追い、リビングに入るのだった。
結局私が作った馬鹿多い料理は3人で何とか食べきった。
私と花は大して食べられなかったのに藤咲が無言で食べ続けてくれたおかげだと思う。
おいしかった、とかご飯を食べて笑顔をもらすことなどはなかったがそれでも食べてくれていたということはまずくはなかった、ということでいいのかしら…?
「見た目によらず結構食べるのね?」
食事の後、お茶で一服している藤咲に声を掛けた私は自然と藤咲の細い体が目に入った。
お腹が膨れているわけでもない。
来たときと変わらず細身で薄着の格好がまるで男の子のように見えた。
『こんな細い体のどこに入っているの』
興味本位で触ってみた。
非難の声などは上がらなかったが一瞬身体がビクッとして硬直したような気がした。
すると花から声がかかる。
「ほら、リサ?鏡が困っているわよ。それでもあんまり人間とか好きじゃない偏屈な子なんだから、デリケートなのよ」
花は少し藤咲を馬鹿にしたように鼻先で笑い、お茶をすすった。
私は慌てて手をどけて謝った。
藤咲はあまり気にした様子もなく目をそらした。
気まずくなって私はキッチンへと逃げた。
キッチンに逃げ込むと私はシンクに手をついて少しため息を漏らした。
藤咲がうちに来るなんて思ってもなかった。
それは確かに花に時々藤咲の日々の行動を相談したりしてはいたけど。
まさかまさかの連続で。
私の頭はやはり混乱しているのだった。
冷蔵庫を開けて缶ジュースに手を伸ばした。
プルタブをあけて、口をつけた。
キッチンの横で藤咲の声がする。
私はふらふらとキッチンから出て今まさに帰らんとしている藤咲の背中に抱きついた。
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