小説
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…人間の私が、
貴方に愛されることはないのでしょうか。
『人間の女に興味はない』
貴方の一言が、
ずっと心に刺さって…
「何をぼーっとしている」
「!?」
突然現れた貴方は、
私が驚くのをバカにするように笑った。
「…なんですか」
「浮かない顔だな」
「…会いたく、なかったので…」
うつむいて、そう答えるのが精一杯だったのに、
「心にもないことを言うな」
貴方は私を見透かして。
私の顎を掴んで、
顔を上げさせて、
重たく瞳を覗き込んで。
「…会ってどうしろっていうんですか…。…私が、変若水を飲んで羅刹にでもなれば、報われるんですか!?」
抑えていた感情を掻き乱される。
なのに、
「…やはり、人間とは愚かな生き物だ」
貴方は途端に冷たい空気を纏って、
私から手を離す。
「…だったら…何で私に構うんですか…」
叶わないなら、
もういいから…
放っておいてほしい。
「…お前が羅刹になろうと、俺は知らん。お前が人間から鬼の偽物になることは、くだらんことだとしか思わない」
「だったら放っとい…」
「だが」
突然、貴方は私の言葉を遮った。
「…俺と同じ、鬼にしてやりたいと思うことはある」
「え…?」
「ただの人間の女に興味はない。だが、“お前”というものは違う」
一瞬、止まった。
何もかも、
この世で動く全てが、
私の中で止まった。
「…だが、人間を鬼には出来ん」
その一言で、
止まったものはまた動き始めて、
置いてきぼりになりかけた私を、
「それでも、お前を人間として生かし、お前が他の人間どもに利用され傷付く様は見ていて不愉快だ」
貴方の言葉がまた動かし始めた。
…何が言いたいんだろう。
偉そうな口調のくせに、
“だが”と言ってみたり、
何だかまとまりきらないまま言葉を紡いだり。
…貴方らしくない。
「…結局、何が言いたいのですか…?」
貴方の中の“迷い”のようなものを見た気がした瞬間、
私の唇から声がこぼれた。
貴方は黙って、
その瞳で私を捕らえて、
「…つまり、俺のものでいろと言っているのだ」
その両腕で私を捕らえて、
私の唇を奪った。
…報われないことなどなかった。
貴方は、
私の心を捕らえて、
私は、
貴方の心を捕ら
えて。
「お前は俺だけのものだ」
END