*頂物*

□浸透
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堂上共教官の頼まれ事で業務部に立ち寄ったときのことだった。全くと言っていいほど勝手がわからなかったので麻子に協力してもらおうとしたところ、どうやら出払っているらしいことがわかった。

いつ帰ってくるかもわからないし、仕方なく近くにいた館員に手伝ってもらったのだ。

確かにその相手は女性だったが…!


「見てたわよー」
「は?」
「随分長い間話しちゃって」


見てたなら声をかけてくれ、と言おうとしたがどうせまた何か返されるに決まってる。こんなことで言い争いになるのも面倒だと口を噤んだ。


「別に長くはなかった」
「楽しいことは短く感じるって言うものねー?」
「…何が言いたい」
「嫉妬しちゃうわー」


確実にからかっている。少なくとも俺が知っている麻子は自分の感情を自分の口で伝えるようなやつじゃない。よってこれは彼女の暇つぶしに巻き込まれたのだろう。


「刺すわよ」
「何を」
「さあ?」
「まさか俺を刺すなんてことはないよな…?」
「貴方を殺して私も死ぬー、って?そんなの私のキャラじゃないでしょう」
「…ならいいんだが」
「あら、それじゃあ相手が刺される分にはいいように聞こえるけど」
「そういうわけじゃ、」
「冗談よ、ムキにならないのー」


結局よくわからないまま麻子は「それじゃ、私はそろそろ戻るわ」とだけ言って業務を再開し始めた。

防衛部に戻る廊下を歩いている最中、どうか館内で殺人事件が起きませんようにと祈っておいた。なにをしでかすかわからない女だからな、麻子は。そんなことを思いつつ結局これもただの暇つぶしだったのかもしれない。

幸いなことに、その日も次の日も関東図書隊内は至って平和だった。


「刺さなかったみたいだな」
「あんたバカねー!冗談だって言ったじゃない!笑えるわー!!」
「一応確認しただけだ!」
「でも、ホントに浮気なんかしたら本気でいくわよ?」


そのときの顔は普通に見たらどうってことない笑顔なのだがこのときの会話が会話なだけに背筋が冷えた。

だがそれも俺を想ってのことなのだと考えたら少し欲情してしまった。どうしようもなく、彼女の愛は俺に浸透しきってしまっているようだ。浸透しすぎて溺れてしまいそうなほど。


「じゃあもし逆の状況になったときは、俺も相手を刺してやるよ」
「ふふふ。ありがと、光」


麻子も俺の愛で溺れてしまえばいいのに。






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へーすけ様との相互記念にいただきました^^

素敵な小説ありがとうございました!!

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