背中の大きな傷
夢主「私の背中の傷、ご存知ですか?」
土「…知らねぇ。」
夢主「私が昔、攘夷戦争で戦ってた時に、ある戦友が私を庇って死んだんです。」
土「………」
夢主「この傷は、その目の前で死んだ戦友に、つけられたんです。」
土「は?」
それじゃあ意味が分からない。
夢主「油断してた私の背中守って死んだんです。」
夢主「その人、優しかったから自分を恨むな。後悔するなら俺を恨め、とバッサリ。」
土「……」
夢主「彼なりの優しさなんです。…でも、私のせいで死んだ事に、変わりはないんです。」
だから、強くなりたい ――
月明かりが夢主を照らす。
紅い二つの目が、俺をとらえる。
土「そう、か…夢主は、後悔してんのか?」
夢主「後悔なんてしてません。ただ、少し悲しかったです。私の為に命を張るなんて…」
夢主「私が弱くなかったら、あいつは死ななかったって…でも、助けてくれた命、大事にしなきゃって思って。」
夢主「もう繰り返したくないから、私は力を求め続けるんです」
愛想の良い笑顔は、どことなく悲しみを帯びていた。
土「…がんばってんだな」
頭を撫でてやると、猫みたいに気持ちよさそうにする。
夢主「はい。私は、あなた達も守れる位強くなりたいです」
土「…そうだな。」
土「でもな、夢主」
夢主「はい?」
きょとんとする夢主。
休みなく働いてる夢主を心配してる隊士もいる。
夢主をきずかって、夜、徹夜で書類を終わらせて昼間に寝てる夢主をきずかってる隊士。
俺も、近藤さんも、総悟も、
土「なにかを守ろうとしてる自分を、守ってくれてる奴がいる事を忘れんなよ」
少しみひかれた目。
すると、嬉しそうな顔になる。
夢主「…はい!」
少し、ほんの少し、
夢主が、俺を見てる事に嬉しく感じた。
ほんの些細な幸せ。
平和すぎて、
何気ない毎日が、幸せで、
だから、迫る闇にきずかなかった。
ドタバタと走って、こちらに迫ってくる足音。
山「副長ォォォ!!!!」
夢主「山崎…?どうしたの?」
山「は、春雨軍団が大量で江戸におりてきています!!江戸に爆弾をおとすかもしれません!!」
土「な…!?」
夢主「…っ」
…ついに来やがった。
いつか来るだろうとは思っていた。
土「……全員叩き起こせ」
山「は、はい!!」
去っていった山崎。
夢主「………」
土「………」
嫌な沈黙が流れる。
夢主「……とうとう、ですね」
土「…こんなに早く来るとは思わなかったがな。」
来てしまったものは仕方がない。
俺たちの町だ。
俺たちが守らなくてはいけない。
夢主「きっと大きな戦争になります。まだ一時間程時間があるはずです。」
土「あぁ。」
夢主「多分江戸には見張りが2、30人いると思われます。私、先に行ってますね」
土「な、一人でか!?」
夢主「副長、私を誰だと思ってるんですか?」
危険な状況に変わりはないのに、ニカッと笑う夢主にどこか安心してしまう。
土「……」
夢主「それに、強力な助っ人もいますしね!」
万事屋の事だろう。
悔しいがあいつは強い。
夢主を任せられる。
土「…行ってこい」
夢主「はい…!!」
門まで送ろうと、ついていくとそこには見慣れた顔があった。
夢主「銀時…!」
銀「おーおー、やっぱドンチャン騒ぎ起きるみてぇだなァ…?」
土「お前…っ!」
知っていたのか…?
いや、だがこいつは一般人だ
銀「なーんか血が騒ぐと思ってたんだよね。」
夢主「さすが銀時。白夜叉の血でも騒いだの?」
銀「みてぇだな?ほら、乗れ。」
夢主を後ろに乗せると、こっちを振り向いた。
銀「夢主はここにいるから…お前ら全員死んだりなんかしたら殺す!」
土「誰が死ぬか。…お前も、夢主も、死ぬんじゃねーぞ!死んだら俺がぶっ殺す!」
夢主「…ははっ、副長命令ならまもらなきゃ」
これが最後になるかもしれない。
夢主「…でも、…土方さん。私と、次に会った時には、もう私ではないかもしれません。」
…?どういう事だ。
銀「夢主?」
夢主「ごめん銀時、行こう?」
銀「ああ」
夢主は俺に頭を下げた。
そして見えなくなる前に、
余計なことを考える前に、
俺は屯所に戻った。