哀猫 -aineko-

□第零話
2ページ/28ページ


由羅「あのお…、ここって万事屋さんですかぁー?」



張りのない声。
気だるそうな顔。
赤くなった頬。

腰には二本の刀。
顔が見えない程伸び切った髪の毛。


万事屋銀ちゃんの看板を背に、扉の前に立つ酔っ払い男。


由羅「あれ…?人いないのかな…あのおー!!!すいまっせーーん!!」


………。



問いかけに応えはなく、静かな沈黙が流れ、由羅は息を吸った。




由羅「あのォォォ!!!ここが金を払えば何でもしてくれるっていう親切な下僕屋さんですかアァァァァ!?金を払えば何でもしてくれるんですよねェ!?それって僕凄い事だなァ、そんな凄い所あるんだァァ!是非助けて欲しいなあ!!!って思ってきたんだけどォォ!!あのぉ!!ちょっと今人から逃げててェェ!助けて欲しいんですけどォォォォ!!!」

銀「うるせエエェェェ!!!」

ガシャアアン!!

するとこめかみに怒りマークを浮かべる男が一人、扉を蹴破り飛び出してくる。

咄嗟の事にも関わらず由羅は冷静にそれを避け、飛び出してきた男は二階から一階へ柵をも飛び出し落ちていく。

地面に叩きつけられた男を、由羅は上から見下ろした。


由羅「ちょっと…こんな時間にそんな物音たてたら近所迷惑ですけど」


上から銀時を見る由羅。

銀時は上におちてきた扉と柵の間から顔を出した。

銀「いやアンタさっきまで叫んでたよね!?何時か分かってる!?こんな時間にあいてると思う!?
今何時だと思ってんの!?
今!!
夜中の三時だからァ!!」



ーーーーーー





由羅「いやあー、なんかさあ俺天人なんだけどお、…あはっ!見えないっしょ?俺猫みたいな天人なんだあー!猫耳…と尻尾もあるんだよね。まあちょっと今は訳あって見せらんないけど。でもさあ、これってね、割と強い天人っていうのバレっばれでさあ?しかも夜兎からすれば俺たちネコの存在ってすんごい匂いするらしくてさあ?じゃあなんか戦闘狂みたいなアホみたいな夜兎に捕まっちゃってさあもう参ったよ本当ー。はっはっは!俺その時呑んでてぇ、力はいんないしぃ、やだーって抵抗したら「じゃあ戦わないから俺の子産んで」とか訳わかんない事言われてさー!んで無理矢理ヤられちゃったー!うっひゃっひゃっひゃ!!
もう腰痛すぎィ!!マジわろえない!!んでえー、今日の朝逃げてきてこの辺きてんだけど絶対俺の事探してんだよなあー、だってなんか一緒に地球出る勢いだったもん。そんなん俺嫌だから適当に逃げてたら万事屋言ってみたら?って始めて会ったマダオって奴に言われたから探しててぇ、やっとさっき見つけたのー!」

銀「何で部屋にいるのかなあ?帰れって言ったよねえ?夜中なんだけど?何語ってんの?殴っていい?」


結局、勢いに負け夜中の三時を過ぎてるというのに部屋には明かりがつき、対面に座っているこの男。

ーーー百獅鬼 由羅。

由羅「んー…でもここにいたら大丈夫な気がするんだよねえ。ねえ、朝まででいいからおいてよ」

銀「あ?金あるんだろーな?ってゆーか顔見せなさいよ。怪しすぎんだろ。前髪どけろ」

由羅「お金ならあるよー、んーっと、こう?」


前髪をどけ、露わになる顔。

銀「……え、おんな?」

由羅「男だよ?」

銀「…アンタいい顔してんだからカモでも見つけたらいいんじゃないの?金払ってここ泊まるより金貰って女でも抱k」

由羅「セックスはもう当分したくなーい!」

あ、そっか…ヤられたとか言ってたな…。
はあ、めんどくさい奴がきたもんだ。

と、銀時は呟くが由羅の耳には届かず。

ため息をつくと、由羅という男は「で、ここにいていーの?」と聞いてくる。
…てかもう半目じゃねーか、ここで寝る気まんまんじゃねーか!
今日は神楽もいねーしな…

眠さに負け適当になる銀時は、由羅に人差し指を向けた。

銀「…今日だけだかんな、いっとくがお前はソファーで寝ろよ」

由羅「うん!ありがとー!じゃあ俺もうネルネルネルネ!!!」

銀「うっせー、はやく寝ろ!」


パチン、と部屋の電気を消す。

銀「布団いるか?」

由羅「いいのー?」

銀「…ん」


予備の布団を出し、掛けてやろうとした瞬間。

銀「うおっ!?」


凄い力で引き寄せられ、上に乗っかってしまった。


銀「…ナンデスカ」

うお、近くで見たらマジで綺麗な顔だなコイツ。
性格がきっと残念すぎるだけで。

由羅「んー…、酔いがさめなくてしんどいよー…」




潤んだ目。
困ったような顔。

銀「…っ、!」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ