青学

□君の知らない君とボク
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冬が、すぐそこに来ている。


コートを出すにはまだ早いけど、
マフラーも手袋も出すには十分の寒さだった。


手塚と一緒に電車に乗って、
ちょうど二人座れるスペースがあって。

いつも空いているこの席は
もはやボクたちの席だった。


いつものように2人で座る。

「手塚。もうすぐ、生徒会選挙だね。」
「そうだな。」
「君はついに、生徒会長の座も降りるんだね。」
「そういうことになるな。」

おしゃべりは、もうこのくらいにしておかないと。


疲れている君は、心地よい電車の揺れに
瞼を重くして、やがて眠りはじめる。



…寝たよね?




ボクは、膝の上で重ねられている手塚の手を握り始めた。


ほら、やっぱりこんなに手が冷たい。

ボクも手は冷えやすい方だけど、
電車の中みたいなあったかいところに入るとすぐにあったまる。

でも、手塚はそうはいかなくて、
ずっと冷たいまんま。

それに気づいたのは、一週間くらい前。

電車に乗って座ると、必ずと言っていいくらい寝てしまう君。

そんな君に触りたくて、
手を重ねてみた瞬間に知った、君の体温。

それからは手塚が寝ると
ボクはこうして手塚の手をもむ。

少しでもあったかくなるように。

ちなみに、一目はもともと気にしない性格だから、ボクは大丈夫。

手塚は全く起きないし。


それに、ちょっと手を離してみせると、
手塚は「ん…」と喉を鳴らして
僕の手を追ってくる。

少し意地悪かもしれないけど
手塚にちょっとでも求められるのが嬉しくて、
ついやってしまう。


手を揉んでいるうちに指を絡めてくる手塚。

冷たいなぁ、手塚の手。

おっきくて、ラケットを持ちなれた、ちょっとゴツゴツした手。


好きだなぁ、この手。


この体温、
この手、
眠っている手塚、
起きている手塚、
手塚の全部、

全部好き。


こうしてボクの体温を求めてくる手塚を
手塚は知らない。

つかの間ではあるけれど、
こうした触れ合いをしていることも、
当の手塚は知らない。

これは、君が知らない、
君とボクの秘密の関係。


起きている手塚とは違った充実感や
幸せでいっぱいになれるけど、
シンデレラの魔法のように終わりが来てしまう。





「手塚、手塚。起きて。そろそろ手塚が降りる駅だよ。」
「……ああ。」

寝ぼけ眼の手塚、好き。


「いつも起こさせてすまないな、不二。」
「そんなことないよ。大丈夫。」


そんなことはどうでもいいよ、手塚。


それよりも、ボクは次の一瞬が一番嫌いなんだ。



「じゃあな、不二。また明日、」
「また明日。」


席を立ち、カバンを肩にかける君。


彼の最寄り駅について、ドアの前にたくさん人が集まって、
そしてドアが開く。

手塚は一瞬ボクを見て、微笑んでから電車を降りた。


人ごみですぐに見えなくなる背中。


それでも、さっき降りる前に手塚が微笑んでくれた。

さみしいけど、それだけでボクの心はいっぱいになるから。


ひとりニヤけるのを我慢して、
走り出した電車の窓から
駅から出てくる誰かを探した。





fin


前に
「塚不二には秋が良く似合う」
とかかいておいて秋物全然書かないうちにずいぶんたったっていう!
冬になってますかね…。
ちなみに、私は12月1日までは
冬だと認めません(笑)

111119




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