四天宝寺

□I'm so in love with you
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「光ー?」

「はい。」

「話聞いとるー?」

「はい。」

「今日いい天気やんな?」

「はい。」

「明日も晴れるかいな?」

「はい。」

「明後日も晴れるかいな?」

「はい。」

「大体にして今日台風の影響で大雨やんな?」

「はい。」


「光。」


「はい。…あ。」





謙也さんがなんか俺に話しかけとった。
全然聞いてへんかった。


「自分、今人の話聞いとった?」
「考え事しとって聞いてませんでした。」
「はぁー。どないしたんや。」

大きくため息をつかれる。


謙也さんのこと考えとったで。

彼女説のこと。
謙也さんが俺に優しくする理由。
謙也さんの、全部。


「自分、最近元気あらへんな。」
「え。」

そして、言葉がでなくなった。

誰のせいやねん。
誰のためにこんなに毎日不安になって、考えて…。

男なんにこんなんで涙が出てくるとか、
女々しすぎて、自分を殴りたくなる。

「寝不足っすわ。ふわー。」

あくびをして、涙を隠した。


どんなに謙也さんを好きでも、
この思いを隠すためには、何べんも嘘をついたる。


「で、明日どないする?」
「明日って授業は午前で終わって、部活は6時まででしたっけ?」
「えー、ちょお待ってなー…。あー、せや。
6時までやで。」

謙也さんが携帯のスケジュールを確認する。

「飯…一緒に食いますか。」
「え、でも光明日家で祝ってもらうんじゃ?」
「あー…、そやった…。
ってなると2時間しか…。」

2時間でなにするっちゅうねん。
まあ俺らも中学生やから、そないに遅い時間まで外に出たらアカン。

「あ、せや。
なんなら、明日俺んち泊まります?」
「え、ええの?」
「おかんに今電話して聞いてみますわ。」

そして俺もスラックスに引っかけてあるカバーから携帯を出し、家に電話をかける。


勿論、おかんは喜んでOKを出した。


「良いですって。
謙也さん、きます?」
「せやったら、行かせてもらうわ!
光の誕生日しっかり祝えそうやな!嬉しいわぁ。」


だから、俺の誕生日を祝うのがそんなに楽しみか。
いちいちそんな明るい笑顔を見せて。

そんな笑顔向けられても、俺は淋しいだけや。
その笑顔を、完全にもらえない。
謙也さんの総ての笑顔を手に入れることができなくて。

「謙也さん、今日そっちの方でしょ?」

駅について、いつも乗るホームの反対側を指さす。

「朝、隣駅のスポーツショップ行くって言ってましたもんね。」
「あー!せやった!!
すっかり忘れとった、このままかえるとこやったわ!
おおきに、光。
じゃあ、今日はここまでか。」
「そうっすね。」
「また明日な、13歳の財前光君。」
「また明日。」


手を振って別れた。

俺はそのままホームへの階段を降りる。

すると、同じ学校の制服を着た女子生徒が向こう側のホームの謙也さんに気がついた。


「あ、あれ謙也やん。」
「ん?あいつ部活はいっとったっけ?」
「何言うてん、テニス部やろ?」
「え、そやったけ!?」

他愛もない会話。
知名度の低いテニス部員謙也さんの話に小耳を立ててしまう。

「そういえば、杏美。
謙也に告白したらしいで?」
「え!?付き合うてなかったん!?」
「な、うちもそう思うてん。
せやけどちゃうんやて。
でも、杏美は謙也のことが好きで昨日告ったて話や。」
「へえ〜。謙也、勿論OKしたんやろな。」
「それがまだ何の噂も聞かへんねん。
ま、OKするやろな。」







近くの壁を誰にもわからないように叩いた。
なんやねん、それ、俺知らへん。

昨日告白された?
ちゅうことは今日はもうすでに告白されたあとやん。


気がつかへんかった。

謙也さんの行動は、あまりにもいつも通りで。


俺が、謙也さんの総てを知ってなきゃ、行けへんかったのに。






『また明日な、13歳の財前光君。』





謙也さんの声が頭に響く。






なあ、謙也さん。

あんた誰が好きなんや……。



もう、俺、このままでおれんくなる……。








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