四天宝寺

□I'm so in love with you
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恋が切ないと、気づいた。















「ありえへん…。」

そう言いながら出てくる涙が止まらない。

ああ、そうなんや。
俺、謙也さんが好きなんや。








「あ、またあの子といるで?」
「謙也ホンマにあの子と付きおうてるんかね?」
「どうやろー。でもええ雰囲気やない?」


また聞いてしまう、謙也さんの噂。


忍足謙也、彼女説。



たしかに、最近一緒にいるんはよく見よる。
せやけど、付き合うとるなんて。

だいたいにして、あんな奴、
謙也さんの彼女やない。
声も身長も目も髪も全部全部…

やって、俺が誰よりも謙也さんのこと知ってるんや。

せやから、あの子はちゃう。
絶対に謙也さんは、あんな子好きになったりせえへん。



「お、光。」


後ろから声を掛けられて肩が跳ねる。
今考えていた、謙也さんやった。


「どないしたんやぁ?
そない怖い顔して。
自分の顔にみんなが凍りついてまうでぇ?」

そう、こまったように笑いながら俺の頭をなでる。

頭をなでて、手を頭に置いたまま、謙也さんが背をかがめて俺に視線を合わせ、
「ん?」
と言ってきた。

「なんや、謙也さん、心配してくれとんの?
あんたに心配されるようなことなんかなんもないっすわ〜。
子供扱いせんといてくださいよ。
たかが1歳違いなんやから。」
「1歳言うても先輩と後輩やろ?
大事な後輩は大事にせなアカン。」


そういう、言葉が。
声が。


酷く残酷だ。


謙也さんには、どうせ俺は後輩でしかないんや。

「…んなこと思ってへんくせに。
それより、なんも用事ないなら俺行きますけど。」
「あ〜、ちょい待ち。
ちゃんと用事あるっちゅうねん。
あんさ〜、財前。」
「なんすか?」

「明後日、俺と付き合ってくれへん?」

「…………は?」


付き合うって、なんに付き合うねん。
大体にして明後日って…。

「今日って18日ですよね。」
「せやな。」
「俺、明後日って、誕生日なんですわ。」
「おう、知っとるで。」

………?

「せやから誘ったんやて!」

にこっと笑われる。

ちょお待ってや。
誕生日を誘うなんて。

「酷い先輩やな。
俺の14歳ハッピーバースデーをとる気なんや。」
「どうせ暇やろ?
平気やて。無駄な日にはさせへん。」

「謙也さん以外のメンバーは?」
「は?
俺とお前だけやって。」
「は?」
「せやから、光。
明後日俺とデートしようや。」

にっこり。
目を細めて微笑まれると。






その笑顔が残酷で。








「はぁ〜。
しゃーないっすね。
付きおうたりますわ。」
「っしゃ!!
絶対幸せな誕生日にしてやるさかい!
光!」

そう謙也さんが言うと、昼休みを終えるチャイムが鳴る。


「謙也ー。」

嫌な声が聞こえる。

彼女説の、彼女や。


「おー、杏美。なんや?
あ、じゃあな、光。」

謙也さんは微笑んで、彼女の方へ向かった。



謙也さんが行った後、
俺は廊下で、頭を抱えた。



デートとか、
付き合ってほしいとか、

そう言う言葉を簡単に口にする。


そんなん、期待してまう。


触れる手に、
微笑みに、

いちいち期待してまうんや。











なあ、謙也さん。


あんたは誰が好きなん?











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