四天宝寺

□夜の華
1ページ/1ページ




千歳と、花火大会へ来た。



結構人はいたけど、苦しいほどじゃない場所を千歳が見つけてくれた。





約一時間にわたって、色とりどりに咲いては散っていく花火。

千歳と俺は、花火が打ち上っているあいだは一言くらいしか、言葉を交わさなかった。

ときどき隣から
「すごかぁ〜」
「蝶ちょさんばい!」
みたいな声は聞こえてきたが。


花火がすべて打ち終わり、
周りの人たちが帰りの準備をし始める。

「そういや…写真とらへんかったなぁ。」
「花火の?」
「おん。せっかく綺麗やったんに。一枚も撮ってないわ。」

はぁとため息をつく。

「でもね、白石。
さっきまでの花火は、白石の心のカメラでちゃんと撮られとったよ、きっと。
胸に手を当ててみるばい。」

そう言って千歳がにっこり笑う。



たしかに、
さっきまでの花火は目を閉じればまだ
まぶたの裏に浮かんでくる。


でもな、千歳。


俺、昨年の花火、思いだせへんねん。

綺麗だったってことしか。


ってことは、
この花火大会の思い出も
花火の色も

隣にいたお前も

来年には、新しい花火の色に染められてしまうんじゃないのか。


来年お前はここにはいないんやろ?

もう2人で花火を見ることなんかないんやろ?




「……俺の心のフィルム、ズタボロやねん…。」
「はい?」
「すぐに消えてまうんや。
お前のことも、消えてまう。」

そう言うと千歳ははっとした顔をした。


「俺は…蔵のそばにおるよ?」
「嘘やん。自分まだ14やで?
中学生のうちは思い通りになんかならんのや。」

「じゃあ、俺はどげんすればよかとや?」
「……さあ。」


中学生の恋は、どうにもこうにも淡くて儚い。

そんなの、わかっている。



どうすればいいのだろう?



忘れたくない。

好きなんだ、千歳が。





「わからへん……」

夏の終わりは情緒不安定になってしまうのが嫌だ。

こんなことで涙が止まらなくなるなんて。



「俺は、高校は九州に帰っと。」
「おん。」
「でもね、俺も蔵んこつ好いとう。
やけん、会いにくるよ。
来年の花火大会。

この先もずっとずっと、毎年、
俺とこん花火大会ば来て、一緒に見て…
いつか、2人立ちするったい。」


「それて…プロポーズなん?」
「うん。結婚ばしよう?蔵。」
「将来な。」

笑ってごまかして、

黙ってキスをして、

帰る準備をした。




千歳の言う言葉はあてにならない。

だから、期待はしない。


でも、好きだと言われたから、
きっと今日の花火の光と千歳と千歳の声は
来年も、きっと残っているはず。



そうしたら、来年も…


来年も、





fin


いやぁ、夏終わったんですけどね!!
8月中に書きたかったのですが、忙しくて…(;_:)

花火見た後すぐに浮かびました。
白石が来年今年の花火を忘れていて、
千歳も忘れていたらどうしようって。

中学生の恋って儚い…。


110901






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ