上下左右の対称

□八話
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バンッと倉庫を開けると、スス臭い匂いがした。

中は暗く、昼間の太陽のおかげでようやく薄暗く落ち着いていた。

少し奥に行くと、大きな鏡が立っていた。
足下には掛けてあったであろう布と日輪の鞄が、少し雑に落ちていた。

「この鏡、同じだ…」

「アッチの方にあるヤツと?」

「はい、こっちの方が幾分かは綺麗だけど、同じです」

日輪の話を聞いて、目を丸くした作兵衛。

それっきり、考え黙り込んでしまった。

隣では日輪の荷物を確認していた。

財布やノート、文房具を興味深そうに左門と三之助が見ていた。

「…あ、鏡の前になると電波が…」

「新しいパーマの種類か?」

「えっと、携帯電話が繋がる範囲で、電波が立つと電話やメールの連絡が出来るんです」

普段訊かれもしない事にしどろもどろ答えるが、どうやら納得してくれたようで胸をなで下ろした日輪。

「もしかしたら富松君たちに連絡出来るかもしれません」

嬉しそうに微笑んだから、作兵衛は少しだけ緊張の糸が緩んだような気がした。

戻る手がかりが増えて、安心したのだと思った。

「何を打ってるんだ?」

「メールです、電話番号が分からないので…
基本は手紙と同じで、違うのは運ぶのが人か電波かだけです」

左門は相変わらず質問を絶えず聞く。

画面に送信完了という文字が出ると、パタンと携帯電話を閉じた。

鏡は曇ったままだが、進展は確かにあったのだった。

「…も少し、この倉庫ん中見てみるか。
なんかあるかもしんねぇし」

考えるのを止めた作兵衛が口を開いた。

日輪は返信が来たときに取れないから、と言って鏡の前で鏡を見ている。

近くに落ちている鞄を拾って、そっと抱きしめていた。

外はまだ、冷たい風が強く吹いていた。

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