上下左右の対称

□五話
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「作兵衛、部屋には戻ってきてないね。
どこいったんだろ。」

「そう…です、ね。」

いきなり慣れない環境に置かれて、おどおど戸惑うが、左門が積極的に引っ張って安心させようとした。

「ところで日輪はいくつだ?」

「えっと、15歳…。」

「俺らは13です。
名前は知っての通りだから、言わなくても大丈夫ですか?」

小さく「はい」と言うと、三之助は不思議そうに尋ねる。

「奈津と同じ顔だから、同じようによく話すのかなって思ったけど、そうじゃないんすね。」

「奈津ちゃ…コッチにいた奈津さんは明るくて、よくしゃべる人なんですか?」

少し長く話をしてくれた日輪に、嬉しさを感じた三之助は、ニコニコして返事を返した。

「そう、ですか。」

そのあと、小さく何度か「そう振る舞った方がいいのかな」「友達が多そうで大変そう」とつぶやいていた。






「な、ん、で」

アイツが部屋にいんだよー!!!絶対三之助と左門だな…

と心の中で叫んで、部屋の前で溜息をついてうずくまる作兵衛。

「(二人いねーし…。謝ること考えに来たのにアイツいたら出来ねーじゃん)」

一人でオドオドしている日輪をジッと見る。

たまに見る奈津は、よく笑って友達に囲まれている印象が強かった作兵衛にとって、
今いる日輪は不思議の対象だった。

「(本当に違うんだな。顔はまるっきり一緒なのに)」

そんな事を考えていたら、日輪が作兵衛と目があった。

「…あ。」

「作、兵衛、さん。
ご、ごめんなさい!部屋…勝手に入ったりして…
左門さん達は少し出かけてて…その。もうすぐ帰ってくるので、あの。」

さっき怒ったのがかなり効いてしまったのか、泣きそうにさせてしまった。

なにか言おうと思ったとき、後ろから聞きなれた声がかかる。

「作兵衛、戻ってたのか!」

「女の子泣かすなよ、作兵衛。」

相変わらず気の抜けたような二人の様子。
そして言葉のフルボッコに遭う作兵衛は、また溜息をついて一言叫んだ。

「泣かせてなんかねーよ!方向音痴コンビがぁ!!」


ふと、日輪が笑っているように見えた。

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