忍たま短編集

□…あぁ
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今日は僕の日。僕の部屋に名前が来る日。

なのに、少しどころか普通に遅い。

イライラに負け、バフッと布団に飛び込む。

その時、名前が小さくなって部屋に入る。

「…名前。」

僕の低い声に、ゴメンと謝る名前。

「服。」

「と、友達とじゃれ合ってたら…土とか、結構着いちゃった。」

苦笑いをして服をはたく名前に、ベッドから立ち上がって近づく。

「じゃあなんで?」

「え?」

「何で泣いてんだよ。」

少し怒鳴るように言うと、名前を挟んで壁に腕を伸ばす。
名前の目が大きく揺らいだ。

「な、泣いてなんか…ないよ。」

「またアイツか?」

ビクッと、肩を震わした。

逸れた目から、大きく涙が出てくる。

「…私は、いら、ないんだっ…て。」

名前は、鞄を抱えて、しゃっくりをしながら泣いた。


アイツ。とは、僕の前の彼氏。
名前の元カレの事。

かなり仲が良かったらしいが、別れた原因は知らない。

聞くのは、無理そうだから。

「うっうぁぁ…ふぇっ…。いやだ、いやだぁあ!!」

殴りでもされたのだろうか、かなり重いと思った。
名前が崩れ落ちるのを受け止めると、そのまま泣き止むまでずっと抱きしめていた。



三回、僕はアイツを見たことがある。


初め嬉しそうに歩いている二人を、通学路でみかけた。

アイツは学校が違うから知らなかった。
名前の事は同じ学校だから知っていたが、ロクに覚えてもいなかった。

「兵太夫も、彼女とか作ってみろよ。憧れでもいいしさ。
…ほら、苗字は?ちょうどそこ歩いてるヤツ。
彼氏もちだけど、気さくでいい奴だって。」

二人を見たとき、団蔵が話していた。
その時の記憶は驚くほど薄い。けれど、これが始めだった。


二回目は、他の女と歩いているときだった。
これは三治郎に聞いて判明した事だったが、見たときに何かのショックを受けた。

名前に、この話題を振ったことがあった。

でも名前が泣き叫ぶから、結局は何も分からないままで終わってしまった。
が、別れた原因として女遊びの癖があったのは大きな切り札だったということは、分かった。


三回目が、苗字と付き合ったあとだ。
2人で学校の帰りに本屋に寄った時に、会った。

名前が名前を呼ぼうとしたときに、アイツは名前を殴り

「近寄るな!!消え失せろ!!」と言った。

その時は驚きで、声も出なかった。
はっと名前を見ると、静かに涙を流していた。

「ごめんなさい、ごめんなさい」と、アイツが去るまで何度も何度も繰り返していた。
アイツが完全に見えなくなると、電源が切れたようにふっと倒れ込んだ。


好きなんだろう。とても愛しているんだろう。
怖くなるくらい、アイツと一緒を望んでいたんだろう。

同様に、アイツも愛していたんだろう。昔は。

俺は、そう扱われないのに。
ヤキモチも憎しみも混ざって、アイツの事を心底嫌っている。

でも、アイツには勝てない。

「へいだ…ゆう。」

そして名前に残った傷を治す力も、代わりになる力も無い。

「…もう、忘れろ。」

それでも、名前と一緒にいたい。
力になりたい。
アイツに負けないぐらい

お前を愛したい。





「…そう」の続編的な何か。兵太夫が好きすぎて続いてしまった。
後悔はしたけど反省はしてない。
なんだかんだ言いつつ少し特殊向けだったかもしれないのに読んでくださり、ありがとうございました!!


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