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今更ながら拍手御礼文追加しました。

刀剣乱舞 御手杵(pixivでも載せてるよ)






 主の願いは、自分が打った刀の付喪神になることだった。
 それを主から聞いたとき、御手杵は意味が理解できず、「へー、そうなのか」とありきたりな相槌しか打てなかった。
 唯一、御手杵に理解できたのは、主が最初から元いた世界に帰る気など微塵も無いことだった。

 主は人であることを捨てるのだ、全てを捨てても刀剣になりたいと言うのだ。
 主は自分の願いと引き換えに審神者になった。
 優秀な戦績を納めた審神者には、政府が何でも願いを叶えてくれるらしい。
 そういう契約の元に審神者はそれぞれの本丸に派遣されると聞いた。
 主は、何故刀剣になりたいのか、色々と過去を話してくれた。
 自分の打った剣は相棒であり、一緒に成長してきた、この剣と主は一心同体だと言われた。
 主は元いた場所からこちらへ来る時もその剣を持ってきた、どんな時でも大切そうにその剣を抱えていた。
 その剣は御手杵達とはまったく違う物で、本丸の中で誰一人、見たことも無い形をしていた。
 ただ、主と同じ様に凛とした真っ直ぐな刃をしていた。

 ある日、主に呼び出され、街へ出掛けたことがあった。
 「買い物に連れていって、俺をみせびらかそうってぇ? 」
もちろん、主をからかって言っただけだった。
 それなのに主は戸惑いも無くうんと言って楽しそうに笑っていた。
 主は店の滞在時間が長く、日用品や雑貨やら色んな物を探していた。
 しばらくして買い物を終えると、良い色が見つかったと店から出てきた。

 それから数日が経ち、主は、御手杵にはこれが似合うと装飾品を手渡してきた。
 それは、その緑色の桜の形をした袋に、紅色の小さく光る玉が付いている不思議な物だった。
 主が御手杵の槍に結び付けると、この御守りは作ったんだと誇らし気に御手杵に言った。
 さらに、御手杵がちゃんと帰ってくる様に祈って作ったから効果はバッチリだと主は言っていた。





 今の主はまるで眠っているかのごとく静かに横になっていた。
 後数刻すれば、またいつももと同じ様に目を覚まし、大きな欠伸をしながら寝惚けた声でおはようと声を掛けてくる。
 御手杵は忠犬のように主の目覚めを今か今かと待っていた。
 ふと、主の手が御手杵の髪を掬った。
 主は消え入りそうな声で、しばらく夢を見る、と告げ再び深い眠りへと落ちていった。
 剣を抱く主には、綺麗な紅い花が咲いていた。
 その姿はあまりにも美しく、御手杵は主に軽く口付けをした。
 「俺の主、おやすみなさい」
 自らも情け無いと思うほど、震えたか弱い声だった。

 果たして、主はあの剣の付喪神になることができたのか?
 もうよくわからないけど、主は優しくて真面目で、何よりも大切な人だったと思う。
 わからない、どんどん主の記憶が無くなって行く。
 頬を伝って零れ落ちた雫は、小さな水溜りに波紋を広げた。
 ひとしきり経つと、御手杵はもう何故泣いているのかもわからなくなった。
 しかし、心にも記憶にもぽっかりと大きな穴が空いた気分で、今すぐここを立ち去りたい衝動に駆られた。

 御手杵の前には、ただ赤い花が咲いていた。
 とにかく何処かに行こうと、槍を手に立ち上がった。
 槍に付けられた装飾品がきらきらと揺らめいた。
 着けた覚えの無い装飾品を見ると、胸が熱く抉られ、頭が酷く痛む錯覚を感じた。
 「くっ……なんだこりゃ?…いつ付けたんだ?」
 御手杵はその装飾品を千切り捨て、振り返ることも無く、真っ直ぐに歩き出した。








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