パンドラ

□Love complexA
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メフィストが燐に手を出してしまった日の昼過ぎ。

ランチパック片手にネットサーフィンを社内のパソコンで遠慮なく楽しんでいた少年のような外見をした男性は、携帯の着信音に気付き、はたと手を留めた。

ディスプレイには“兄上♪”の表示。それに着メロもパッフェルベルのカノンともなれば、相手は一人しか居ない。

彼は面倒臭そう眉を寄せつつ、カツサンドを嚥下すると携帯を取る。

「はい、ボクです。何の御用ですか、兄上?」

そう尋ねた彼に電話を掛けてきた男性は「済まないな」と前置きしてから用件を口にした。

「少し話がしたい。今、時間はあるか?」

「ようつべで面白動画を検索中なので、後にして貰えますか〜?」

最近MADが熱いんです、と気怠げな返事をした相手に男、メフィストはぶちキレた。

「大事な用なのだ。良いから聞け、アマイモン!」

この自己中野郎、と罵る声に少年に見える青年、もといアマイモンは携帯を耳から話して顔をしかめる。

「五月蝿いなぁ…そんなに大声出さなくても聞こえますよ〜」

鼓膜破れちゃいます、と文句を垂れる彼に兄上ことメフィストは知ったことかと鼻を鳴らす。

「ならば、黙って聞け。良いな?」

「はいはい…仕方ないなぁ…」

飽くまで横柄な態度を崩さないアマイモンに苛立ちながらもメフィストは続ける。

「私達に腹違いの弟が二人居る、と言う話は以前したな?」

アマイモンはしばし首を傾げて考え込んだ後、「あぁ」と得心したように呟いた。

「奥村燐、と奥村雪男って言いましたっけ?確か双子で兄の方を預かってるんですよね?」

記憶力は決して悪い方ではないが、興味のないことはとことん記憶から排除してしまう彼には珍しく覚えていたらしい。

メフィストは感心しつつ「そうだ」と返した。

「ふぅん…父上から話は聞いてますよ?女みたいに可愛い顔してる割に、生意気なガキだって…」

ボクも会ってみたいんですけど、なかなか休みが取れそうになくて…。

ぼやくアマイモンはなんと一月以上マトモに休日を取っていないらしい。

幾らデスクワークとは言え、指と目、そして脳を酷使する辛い仕事だ。

それにも関わらず、それだけ働き詰めとは、並の人間ならば倒れてしまうだろう。

だが、アマイモンは並大抵の人間ではない。




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