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□取り扱い注意
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「助けて」




とは言わなかった。

いや、言えなかった。

どうせ言ったって聞こえやしない。

とにかく助けを待つしかない。




この危機的状況で。




ドンッ!!


「あーら考え事?随分余裕なんだね、みょうじちゃん?」




激痛は吐き気を連れて体中にはしる。

しかしこれだけ激痛を与えられれば、もうどこが痛いのかさえわからない。





つまり、私は今まさにイジメられているのだ。




ああ、これはやばい。

とても「危ない」状況なのだ。




「ゲホッ」




・・・まだ血ははかないか。




というのも、私は厄介な持病持ちで体が他人よりも弱い。

悪化する前に薬を飲めばまだマシかもしれないが、その助け舟である薬様はもちろん手元にはない。




ドンッ!!


バチッ!!




当のイジメっ子達はというと、そんなことお構いなし。

当たり前か。




ドンッ!!


「!!、ゲホッ!!」 パタ・・・




「うわ、血吐きやがった。汚いー。汚れるよー」



「つか早くくたばれしー」





キャキャキャなんて笑い声が聞こえるがそんな場合ではない。




やばい。


意識は・・・まだある。


でも・・・出血・・・


ああ、








死ぬ











ガラッ




「「!!」」






来た。




「・・・・・・遅いよ」




「「ま、丸井くん」」




女子達は今までの表情を崩し、なんともあほらしい顔をしている。



ブン太は無言で横たわっている私のそばまで来ると、優しく抱き上げ、歩きだした。




とても、優しかった。







『ばーか。無理すんなよ。お前はただでさえ"取り扱い注意"なんだからな』


ふっとほころぶその笑顔に、私もつられて笑顔になった。







ブン太は私を保健室のベッドに静かに寝かせると、ポケットから薬を取り出した。


そう、薬はいつもブン太が持っている。

付き合った頃からの決まり。




『ごめんな、遅れて。俺もうちょっとでみょうじを死なせる所だった』




「 大丈夫 」

そう言いたいが、声がもう出せない。




ブン太はちゃんと察してくれたらしく、静かに薬を自分の口に含み、私の口へと運んだ。




口移しなんて、幸せ・・・。




こくん

飲み込むのを確認すると、ブン太は静かに離れた。




『・・・そんな顔すんなよい。 後でいっぱいやってやるよ』




天使のような笑顔。




静かに背を向け、入口へゆっくり歩き出す。

















悪魔のような顔をして。















だから






「危ない」んだ






この人は、






取り扱い注意 なの。




『お前ら絶対許さねえよい?』




(遠くで叫ぶ悲鳴は、聞こえないふりをする)

(私の為という優越感)



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