最遊記
□dew drop 4
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年月はもう幾度悟浄の上を通り過ぎただろう。
小さかった悟浄の身体は少しずつ大人へと近付いていた。
肩までだった髪も伸び、顔つきも大人びてきた。
三蔵がアメリカへ渡ってしばらくして、八戒という男が悟浄の研究チームに加わった。
とても優秀な男で、新米なのにも関わらず他の研究者から絶大な信頼を寄せられ、人当たりの良い笑顔も手伝い、彼は悟浄の身の周りの世話を任された。
新しい世話係りだと紹介されたが、悟浄にとってはどうでもいいことだった。
ここにはもう三蔵はいない。
自分に残されたのはあの約束だけ。
ガラスの向こうに立つ新人を見ることもなく、ただ白い壁を見つめた。
「綺麗な紅ですね」
「え…?」
突然聞こえてきた声に思わず振り向く。
柔らかい笑顔に深い緑の瞳がこちらを見ていた。
「やっとこっちを見てくれましたね」
優しそうな声が男の口から紡がれる。
先程の言葉は彼のものだと知れた。
「初めまして、悟浄。八戒と言います」
「……なぁ」
「はい?」
「キレー?これ」
自分の髪を一房摘んで問いかける。
見つめる瞳は三蔵とはまた違った強いイロを湛えて。
「ええ、とても綺麗です」
そう笑った。
「それ言ったの、アンタで二人目だ」
「おや、先客がいたんですか。それは残念ですね」
男は本当に優しく笑うから。
つられて悟浄もほんの少しだけ笑った。