最遊記

□隣人@
4ページ/5ページ

ふっ、と浮上した意識。
寝ていたのだと気付くのに随分かかった。
カーテンの引かれていない窓を見れば、自分がどれくらい寝ていたのかわかる。
太陽は完全に姿を消して、広がるのは静かな暗闇。

ぼうっとしている頭を動かそうとベランダに出た。
冷たい風が心地よい。
煙草をくわえて火をつけようとした三蔵の耳によく知った、けれど聞き慣れない声が入ってきた。

「―――やめっ…!」


それは隣室の男の声だった。
こんな時間に居るのは珍しいと思いながらも、感じた違和感に眉をひそめる。

「い…やだっ、窓閉め…」

確かに悟浄の声ではあるのに、普段からは考えられないほど余裕がない。

喧嘩だろうか。

だとしたら迷惑な。
明日にでも文句を言ってやろうかという三蔵の考えは見事に打ち消された。


「窓…?開けときゃいいじゃねぇか。お前のイイ声聞かせてやれよ」
「…あっ…」


暫く動けなかった。
耳から次々と送られてくる情報を頭の中で上手く組み立てる事が出来ない。

―――悟浄…?

快楽を含んだ艶のある声。
同時に聞こえるのはそれとは違う男のもの。
勢いに任せてベランダの窓を閉めた。
鍵をかけてカーテンを引く。
ぐるぐると様々な感情が渦巻く。

『どーする悟浄?お隣サンとかに聞かれてたら』
『あぁっ…や…ぁっ』

ぎりりと拳を握り締めた。
普通の情事とは違う。
聞こえてきたのは両方とも男の声。
啼かされていたのは数時間前まで笑って話をしていた隣人で。

今夜は用事があると言っていた。
これが用事なのだろうか。


「――くそっ!」


三蔵の中に、名前もわからない感情が湧き上がった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ