最遊記

□キスくらべ
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割りと聡い所があるくせにこの表情。しかし、芝居、という訳ではなさそうだった。

「違うのか?」
「何でそういう発想に至ったのか伺いたいわ。急に何なわけ?」
「この間、見たんだよ…てめぇと、八戒が……」
「――――チューしてたって?」
「!!」
「あ〜それでね!」

何ということもなく言ってのける悟浄に面食らう。
三蔵が動揺したように、悟浄もまた、目撃された事に少しは狼狽えるかと思っていた。
意に介す様子もなく、ただカラカラと可笑しそうに笑っている。

「で?何が言いたいの?気持ち悪いって?三蔵サマには迷惑掛けてないっしょ。こっそりやってたの覗いたのはお宅だぜ?」
「別にんな事言ってねぇだろ」
「じゃぁ何?あぁ、付き合ってるかって話だっけ、それならノーよ?」
「………お前、付き合ってもない奴とキスすんのか」
「意外と純情な考え方しちゃうのね三蔵ってば。さすがチェリー……っておい!銃口向けんな!……気持ち良けりゃそれでイイんだよ、俺は」

予想外に予想外を重ね、三蔵は目眩すら覚えた。
悟浄という男が快楽第一主義である事くらい、わかっていたはずなのに。

「節操のないこったな」
「つかさ、何で俺ばっか責められるわけ?」
「責めちゃいねぇだろ。何だ俺ばっかりって」
「だって条件は八戒も同じじゃん。八戒だって俺とキスすんの、気持ち良いからだぜ?その辺スルー?」

頭を殴られた様な衝撃が走った。
悟浄に指摘されるまで、八戒の事など頭になかった。その事実に気付かされた。
何故だ。

あの光景が目に焼き付いて離れなかった。
だが、頭に残るのは、くぐもって聞こえた悟浄の声と、ほんの少し上気した表情。そして、卑猥に動く唇。

「―――気持ち良けれりゃそれでいいんだったな」

三蔵の中で、何かが音を立てて崩れた。

「だったら、俺とも出来るってのか」

ソレに触れたい、と。

「何?何の冗談よ…」
「冗談は好かん」
「え、マジで言ってんの?」
「余計な事は喋るな。出来るのか出来ねぇのか、それだけ答えてりゃいいんだよ」

三蔵の鋭い紫暗の目が、悟浄を射抜く。
一般の人間なら怯え惑うそれを、悟浄は口の片端を上げて受け止めた。
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