50万hit企画部屋
□〜ゾイ亜美編〜
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要と亜美の場合
※二人とも社会人。結婚後。前作(ネフまこ)の続き。
「かなめさ…っ落ち着いてください…!」
亜美の腕を引いて居酒屋を出て、人気の無い路地に出ると顔を近づける。すると胸を押して抵抗する彼女は夜の街灯の明かりだけでも分かるほど赤かった。
「嫌。」
「ここ外ですよ外!」
「じゃあ、家ならいいの?」
「…っっ!!」
真っ赤になっての沈黙は肯定ね。ハイ決定。
企み顔で笑う私に若干青褪めている彼女の頬をふにと摘まむ。
想定外の行動だったのか目を白黒させているから面白くて仕方が無い。
「とりあえずこれで、今は許してあげる。」
「も、もう!さっきっから…!いい加減にして下さい!」
「うるさいわね、さっさと帰るわよ。」
路地を抜ける。
そう。さっき、居酒屋でふざけた男はこう言った。
『まだ水野さんがどこの病院勤めてるか聞いてないし!注射して欲しいのに〜!』
はあ?てめえ何言ってんだよ変態か。
脳内でプツンと男モードに変換された私は無言でその男に近付いて、テーブルにあった水が注がれたグラスを持つとそのままそいつに頭からゆっくりたっぷりかけてやった。するとお粗末な悲鳴を上げた男は振り返って掴みかかってきた。
『つっめてえなあ!!なんだよお前!何すんだ!!』
『亜美の亭主だ。お前には注射じゃなくてこれで充分だろ。』
『はあ!?』
切れてる男。けれど私はそれ以上に切れていたから全く問題にならない。
『水でもかぶって反省しろって言ってんだよ。』
ここ数年で一番のドスの利いた声で胸倉を掴み言い返すと、ひゅっと息を飲んだ男はそのまま黙った。酒で気が大きくなっていた勢いが一気に現実に返ってしぼんだ様が見て取れる。
その後は亜美に必死の形相で止められたから何もしなかったけれど、「それ私の十八番なのに…」と場にそぐわない小言を言われた声がやたらと耳に残った。
「もう、ほんと信じられないです。あんなことを皆の前でするなんて。」
「あら心外。嬉しくなかったの?」
「嬉しくありません!!要さんも絶対酔ってますよね!?」
まーったく、素直じゃないんだから。そんなこと言いながらもその酔っ払いと繋いだ手は離さないくせに。
怒った彼女の顔に再び近付いて避ける隙も与えずに唇を重ねた。
「な…っ」
「素直じゃない口へのお薬です。ドクター西園寺?」
あら?現金だけど今頃酔いが回ってきたみたい。なんだかずいぶん楽しくなってきたわ♪
「ば…っ馬鹿じゃないですか!?あなたこそ水でもかぶって反省してください!!!」
勢いよく離れてのたまう亜美にニッコリと微笑み返す。
「なにそれ面白そうね♪♪」
「…っっ要さん!!!」
「いいから、早く帰りましょ。」
上機嫌に鼻歌まで口ずさむ私に深い溜め息を落とした亜美は、要さん酔ってて足元危ないですからと、結局腕を絡めてくるものだから笑ってしまう。
そんなかーわいいことして。帰ったら覚悟しなさいよ?
夜の喧騒はどこか遠くへ。慣れ親しんだ心音を近くに感じて、踊るように歩くリズムが今夜は馬鹿に心地よかった。
おわり