50万hit企画部屋
□〜クン美奈編〜
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賢人と美奈子の場合
※二人とも社会人設定
中学からの友達に招待された結婚式が終わった頃、賢人から連絡が入った。彼も仕事絡みの会食が終わったらしく、それがここから近くだったこともあり駅で待ち合わせることにした。
そのまま帰るのかと思ったのに、現れた賢人は何かを一瞬考えた後。相変わらず尊大な態度で私をここまで連れてきた。
「ねえ、一体何企んでんの?」
「企むとは、聞き捨てならんな。」
「だってあんたがこんなところに連れてきてくれるなんて初めてじゃない。」
「いいだろう。」
「いいけど…何で?」
「適当に頼むぞ。」
「ちょっとっ!」
眉間に皺を寄せて唇に人差し指を立てて、声が大きいと咎めてくる賢人。そしてウエイターを片手を上げて呼び、口がへの字に曲がったままの私を放置し何かを頼んだようだった。
ここはとあるホテルの最上階にあるひじょーにおしゃれなバー。賢人との付き合いはそれなりの長さだし、彼は私より全然大人だけれど、こんなところでデートするのは初めてだ。嬉しいことは嬉しいけれど妙に落ち着かない。だって、私こんなところ場違いじゃない?
披露宴でもお酒は少し飲んだけどあの程度じゃほとんど酔わない私としては文句は無い。でもどちらかと言ったら居酒屋の方が肩の力も入らないしとりあえずたこわさや枝豆をつまみに生中頼めるし…
「…お前は本当にオヤジだな。」
「ちょっと!勝手に人の頭の中読まないでくれる!?」
小声ながらも精一杯張り上げて賢人を睨む。
「考えが表情に漏れまくっているお前が悪い。その不機嫌面はやめたらどうだ。もったいないだろう。」
「…え?」
「綺麗だな。」
「は、え。え!?」
「夜景がな。」
…っ!こいつ…っ!!
絶対からかってる。いじわるおとこ!!
ほらくすくす笑ってるし…!!
あーもーやだこの男。
いつもより変に機嫌がいいし。あ、もしかして賢人も会食で飲んだりして少し酔ってんのかな。
賢人から真っ赤になった顔を背けて大きな窓ガラスの向こうの景色に目を向けた。
ま、確かに綺麗よ。宝石箱みたいにキラキラしてるし。
これって何ていうんだっけ。確か…
「100万ボルトの夜景ってやつね。」
「100カラットだと思うが。電圧に例えてどうする。」
「もう!細かい男はもてないわよ!」
「別に、構わない。」
「余裕ですこと。」
「俺はお前がいればそれでいいからな。」
「!!」
心臓が大きな音を立てて心の中を大きく揺り動かして。更に真っ赤になった私は反射的に目線を正面にいる男に戻す。
かちりと合う視線。
賢人は滅多にこんなことは言わない。だからこそ嘘でこんなことは絶対に言わない。それが分かってるから。心臓の速さは緩くなることなんてなくてどんどん加速していく。
甘い沈黙に耐えられなくて何か、何か言わなきゃと思ったとき。
「お待たせいたしました。」
頼んでいたものが運ばれてくる。
「わ…カワイイ…」
賢人が頼んだとは思えないほどの可愛いカクテルが目の前に置かれて一気に緊張が解れる。
ふとまだ視線を感じて顔を上げると優しげに微笑んでいる恋人の姿があって。そんないつもよりも柔らかな雰囲気にすっかり気を良くした私はグラスを取って賢人に傾けた。
「乾杯!」
言えば彼も落ち着いた色のそれを片手に私のグラスにそっと重ねた。
「やっぱり、今日はここにして正解だったな。」
一口飲んだ彼はそう言ってからどこか嬉しそうに私を見つめる。
「え?あ、うん!すっごく美味しい。やるじゃないこんないい場所知ってるなんて。さすがダテに私より歳食ってないわね。」
「……」
「何よ。」
「お前は全く分かってない。」
ふかーい溜め息を付いてからまるで頭痛でもしているかのように頭を軽く抑えながらの発言にむっとする。
「はあ!?」
「何でもない。黙って飲め。」
「黙りませーん!」
そんな私の態度にやれやれって肩をすくめて微笑む賢人はやっぱりいつもよりもなんだか甘くて。胸が高鳴ってしまうのをお酒のせいにしてしまえともう一度グラスに口を付ける。
けど、それも酷く甘く感じて。結局赤くなった顔の逃げ道はどこにも無かった。
(いつもと違って大人の女性を感じさせる化粧や髪型、ドレスに身を包んだお前を見て、いつもと違った場所に連れて行きたくなったんだ)
(なんで今日はこんなに優しいの?)
(けれどどんな姿でどんな場所にいようと美奈子は美奈子だと再確認し、拍子が抜けるのと同時に込み上げてくる愛しさがつい表情に出てしまうのはきっと酔っているせいもあるのだろう)
(バカ賢人。かっこいいのよバカ)
((ああ))
(早く抱き締めてよ)
(早く抱き締めたい)
おわり
2014.6.24