連載
□王子の涙
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「キングがご病気ですって!?」
ここはクリスタルパレスの最上階にあるネオクイーン・セレニティの私室。
そこに通された彼女の守護戦士リーダーは、思わず声を上げて彼女の主の言葉を繰り返した。
「ええ。ここの所の不眠不休が一気に体にきたみたいなの。銀水晶の力ですぐに回復するとは思うのだけど…。」
クイーンはそう言いながらも不安の色が隠せないでいた。
ヴィーナスはその表情をすぐに読み取って手早く判断を下す。
「でも万一のことがあるわ。すぐにマーキュリーを呼んできます。」
信頼できるもう一人の守護戦士の名を聞いてセレニティはほっと息を吐く。
「頼むわ。」
そこでヴィーナスが部屋を去ろうとした時だった。閉じていたはずの部屋の扉が僅かに開いているのに二人は気付き息を呑む。
たいした病状では無いにしろ、出来ればキングの病のことは混乱を招かないためにも伏せておきたかった。だから自ずとヴィーナスの口調は険しいものとなる。
「誰なの!?そこにいるのは!出てきなさい!」
するとドアの隙間に小さな影が動くのが見えた。見覚えのあるシルエットに二人はいくらか安堵する。
「スモールレディ。怒らないから、こちらへいらっしゃい。」
そう。それはこの星の第一皇女であり、ネオクイーン・セレニティとキング・エンディミオンの一人娘。プリンセス・SL・うさぎ・セレニティであった。
その幼子は母の言葉に隠れていた身を現して、涙目で二人を見てくる。
「ママ!!」
そして両手を伸ばしてクイーンに駆け寄った。
ヴィーナスはプリンセスに一度拝すると、ここは親子二人で話したほうがいいと考えたのと、己の役割を果たすためにそっと扉の向こうへと消える。
ソファーに腰掛ける母親の膝の上に向かい合うように座り、抱きしめてもらっているプリンセスは、まだ三歳になったばかり。
さっき聞いていた話の内容を十分把握していたわけではなかったが、自分の母親の不安げな口調から、父親に何か悪いことが起きている事だけは察知していた。
「ママ、パパは『ごびょうき』なの?とっても悪いの?」
先のヴィーナスの言葉を真似て泣き出しそうな顔をして母に尋ねる。
娘の不安を取り除くようにクイーンは優しく、可愛らしいピンクの髪を撫でて微笑む。
「大丈夫よ。マーキュリーがすぐに治してくれるわ。それに、この星を守っている銀水晶に、ママも祈りを込めるから。」
「あたしも!あたしもパパのために何かしたい!!パパの側に行きたいよ!!」
娘の必死な表情にそうさせてやりたい気持ちになるが、まだ原因が何か分からない病がこの小さな体に移る事も考えられる。クイーンは眉を下げて口をきゅっと結ぶと首をゆっくりと横に振った。
その様子に再び泣き出しそうになったプリンセスに、次の言葉を掛けようと思った矢先。
「あ!そうだ!」
何か思いついたスモールレディは、母親の膝の上からぴょんと飛び降りて振り向く。その表情は笑顔だった。
「あたしにできること、見つけたよ♪」
娘の明るい様子に驚きながらもクイーンは聞き返した。
「ヒミツだよ☆でも、きっとこれでパパも良くなるから!」
「スモールレディ?」
「じゃあお部屋に戻ります!」
先日教わったお辞儀を小さなプリンセスは母親にしてみせると、不思議そうな顔をしたままのクイーンを残して嬉しそうに去っていった。
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