連載
□月の神話
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第一話
『籠の鳥』
地球国の大勢の軍が月を攻めに押し寄せてきた。
次期王位継承者であるプリンセス・セレニティは彼女の守護戦士リーダーのヴィーナスに連れてこられ、シルバーミレニアムの最奥の部屋にひっそりと姿を隠していた。
肩は小刻みに震えており、つい先程までのことを思い浮かべると、その頬に涙が伝ってしまう。
それは、地球軍の進撃が王宮の近くまで激しく繰り広げられていたころ。
プリンセスの守護戦士である四人は必死に食い止めてはいた。
しかし万が一のことを考えリーダーであるヴィーナスはプリンセスのところに戻り、主の身を守るようにこの部屋に連れてきたのであった。
「さあプリンセス、こちらの部屋で隠れていて下さい。」
強い眼差しでヴィーナスはセレニティに告げる。
「どうして!?私も皆と一緒に地球の方達の所へ説得しに行かせて!」
「それはできません。」
きっぱりと言い放つ。
いつになく真剣な、そして悲痛なヴィーナスの表情にセレニティは何も言えずに瞳に涙を溜めて見つめ返す。
「――もはや、彼等には私達の言葉は通じません。戦うしか…この王国を守る方法はないのです。今、マーズたちが前線に出て決死の覚悟で応戦しています。私も、貴女をここへお連れした今、リーダーとしてそこへ戻らねばなりません。」
しばらく絶望に縁取られた瞳でヴィーナスを見つめていたセレニティはハッと何かに気付き口を開く。
「それならお母様と一緒に祈らせて!祈りの間にいらっしゃるのでしょう?お願い。私に出来ることをさせて!」
セレニティはヴィーナスの両肩を掴んで懇願したが、その手をヴィーナスはそっと握り、ゆっくりと肩から離した。
「生きて下さいプリンセス。」
「…でも」
今度はヴィーナスがセレニティの肩を痛いほど力強く掴む。
驚いてプリンセスは目の前の守護戦士を見る。すると、その瞳を涙で濡らしていた。彼女の涙を初めて見たセレニティは、何も反論出来なくなってしまう。
「生きて…生きて下さい!何があっても。それがこの王国の為。そして、私達の願いなのです…!」
ヴィーナス…そう小さく呟くプリンセスを今度は優しく抱き締める。
「最後かもしれませんから…これだけは言わせて下さい。私は貴女の傍にいることができて、お守りすることができて…幸せでした。大好きですよ。セレニティ様。」
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