短編D

□君を
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「大丈夫?もう、痛くないか?」

深夜。戦闘後にそこからほど近い一ノ橋公園のベンチに腰を下ろした二人は、これ以上ないほど顔を近づけて見つめ合っていた。

負傷したうさぎを癒した衛は頬にそっと触れて労いの言葉をかけたのだった。

「うん。へーき。ありがとね、まもちゃん。」

笑顔で見上げる彼女は公園内の薄明るい外灯のせいなのか青白く見えて、衛の中の不安はまだ消えてはくれなかった。

衛はうさぎを引き寄せて力強く抱き締める。

抱き締めると一層分かる華奢な体に胸が締め付けられる。

できることならばうさぎには安全で温かな場所で好きなことをして、好きなものを食べて、ずっと笑っていてほしい。

でも、それを彼女は良しとしないのだ。普通の女の子としての人生を歩くことを望んではいても、それは一人では意味のないことなのだと。大好きな仲間、大切な人が側にいなければ駄目なのだと言うだろう。

そしてその仲間との掛け替えのない時間を守るためにも戦うのだと。

分かっているのだ。衛は事実、そんな風に強くて優しい、けれどもろくて傷付きやすい彼女の事を深く愛しているのだから。

けれど敵に向かっていき傷を負う姿を目にするたび、衛の心は大きく揺れるのもまた事実だった。



「うさ、頼むからあんまり無茶をしないでくれ……」

かすれた声がうさぎの鼓膜を震わせる。それはうさぎの体中に染みわたっていき目の奥が熱くなる。

衛は静かにうさぎの手を取り、その甲に口付けた。その所作は王子のようでしかし上げられた瞳には深い悲しみとうさぎを想う溢れんばかりの気持ちが浮かんでいて、彼女は下唇をきゅっと噛んだ。

そんな彼女の唇に労わる様に親指で触れる衛は少しだけ寂しそうに笑う。

「ごめん、ごめんね?まもちゃん。」

「泣くなよ。」

今度は頬に指を滑らせて言うその声はどこまでも優しいものだった。

「まもちゃあん……っ」

泣いてはいるが血色の良くなったその様子に衛は安堵する。

「もう、いいから。それよりも……」

「なあに?」

頭を撫でられて、世界で一番安心する体温に身を任せていたうさぎは涙もいくらか止まっていた。

「キスして?うさ。」

「え?!」

真っ赤な顔して凝視するうさぎに愛おしげに笑う衛はそれでも逃げ道は用意しなかった。

「何も……言わなくていいから。うさからのキスが、欲しいんだ。」

「そ、そしたらまもちゃん許してくれるの?」

「許すも何も、俺は始めからうさのことを怒ってなんかいない。」

「じゃあ……なんで?」

「理由なんてないよ。好きな子からキスしてほしい。ただ、それだけ。」

「で、でも「おしゃべりはおしまいだ。うさ?」

トントンと自分の口元を触ってゆっくりと目を閉じる衛の色気は凄まじく、うさぎの動きを10秒止めた。


それでも根負けせず待ち続けた衛はうさぎの想いを載せた確かな温もりがようやく唇に触れ、幸福感に満たされていった。

更にその幸福を追求したくて衛は深くキスを仕掛ける。その行為から二人を解き放つにはあと少しだけ時間が必要だった。




おわり
2019.5.21

※診断メーカーお題より
「I love you」
をまもちゃん風に訳すと、
「どんな言葉よりあなたの口付けが欲しい」
となりました



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