短編D

□あなたとワルツを(エンセレ)
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1.

明日は普段は掟にならって極力接触しない月と地球の両国が、ゴールデンキングダムに集まりパーティーを開くという数十年に一度ある国交の日だった。

正式の場で恋人に会うなどもちろん初めてだった俺は前日から落ち着かず、意識はしていなかったのだが日程の確認を何度もしてしまい、それを指摘されたクンツァイトに分かりやすくため息を付かれていた。

「マスター。今からそんな調子でどうするのですか。一国の王子たるもの、もっとしゃんとなさい、しゃんと。」

「分かっている!クンツァイト、前から聞こうと思っていたんだが……俺はそんなに分かりやすいか?」

「はい。少なくとも我々四天王にとっては。マスターは公務、武道、勉学は非常に優秀で隙のないお働きをなさるのに、こと月のプリンセスに関しては思いが駄々洩れで腑抜け…いや失礼、不器用がすぎるかと。」

「クンツァイト!!」

即答した上に余りの言い様にかあっと頬が熱くなり声を上げるが、どこ吹く風の年上の臣下。けれど図星を付かれているため悔しいが反論も思いつかないのだった。

仕方がないだろう。好きなんだ、セレニティが……とても。


そんな時、王宮の仕立て職人に王子である俺の正装を直させていたゾイサイトがそれを抱えて従者と共にノックをして入ってきた。別件の用を伝えに来たジェダイトもそれに続く。

「ん?何ですかこの雰囲気。楽しそうですねえ。」

「そうだな。」

「こらクンツァイト!楽しくはないぞゾイサイト!」

しかし何やら全てを見透かしているような四天王ブレーンの切れ長の瞳は愉し気に細められた。

「おい二人とも!面白いからと言ってこれ以上マスターをお揶揄いになるのはやめろ。明日は大事な日なんだぞ。仕事をするのが先だ!」

「なあにー?ジェダイトったら張り切っちゃって。まあ君に言われなくても?私はちゃんと仕事をしますけどね。」

フォローしきれていないジェダイトの言葉に漸くゾイサイトは従者と共に正装を広げていく。

袖と襟の刺繍がより洗練された上等な仕上がりになっただとか、筋力が付いて少しきつくなった胸周りや腕周りが直され着心地がよくなっているだとか、嬉々として語るゾイサイトの声を従者に着せ替えられながら聞く。そんな説明が一通り済めば今度はジェダイトがマーズから伝達されたシルバーミレニアム側の諸々の連絡。それが終わる頃には姿見の前にすっかり王子の装いとなった自分がいた。

いつもとは違う、甲冑はないゴールデンキングダムの正装。
黒の生地にゴールドの刺繍と肩を飾る控えめなシルバーとブルーの宝石。ラインには抑えた臙脂色が生地の黒と調和されて全体を引き締めて見せていた。

「これは見事。よくお似合いで。」

「マスターの男ぶりがますます上がりますね!」

「ああ襟の刺繍、やはり直させて良かった。マスターのお顔立ちが一層麗しく華やいで見えます。」

後ろから俺の姿を覗いた三人が三人がかりで褒めちぎってきていたたまれない。

そこへ短いノックの後に返事を待たずに開けるネフライトが登場し大袈裟なくらい感嘆の声を上げてきた。

「おおっ!いいですねえマスター!これで明日の夜はかのお方のお心も鷲掴み!」

「な、なにを言って…」

「照れなさんな!何なら景気付けに剣の稽古でも付き合いますよっ!」

「馬鹿者!このお姿で剣の稽古などなされるものか!空気を読め空気を!」

クンツァイトの一喝で身をすくめるネフライトだが、慣れたものですぐに持ち直し、では着替えられたら裏門でお待ちしていますよ!と言いウインクをして去っていった。まさに嵐。

しかしそんな嵐の一言が俺の中で反芻されていた。


セレニティの心を、鷲掴み……


「マスター。何をお考えで?」

「な、何でもない!」

真顔の白銀の臣下の問いに、緩みそうになった頬を一気に引き締めた。
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