短編D

□キンクイ小話二編
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「セレニティ」

呼ばれて振り返ると漸く午前の仕事が終わった彼女の夫、キングエンディミオンが微笑んでいた。

「お疲れ様、エンディミオン」

「君も。今日は午後は一緒の公務だな」

「そうね」

ここは他の者も通る渡り廊下。二人は互いに労い合うキングとクイーンの顔を崩さない。

「昼食は?」

キングが尋ねるとクイーンはあなたを待ってたからと愛らしい笑顔で返す。食いしん坊は健在な彼女が夫と一緒に食べる為に待ち、そうやって微笑んでくれるのを見ると、キングは抑えていた感情が溢れそうになる。

彼は妻の細い手首を少し強い力で引くと、驚く彼女の言葉にも今だけは耳を貸さずに人気のない柱の影へと抱き寄せ身を忍ばせた。

「ダメじゃないか。あんなにみんなのいる場所で、そんなに可愛いところを見せるだなんて」

ラベンダーのマントに隠されるように包まれて甘い声で咎めてくる夫にクイーンは赤面する。

「もう、エンディミオンっ!誰か来たら…っ」

「この二、三日忙しくて君に触れてない。少しくらい我が儘を聞いてくれてもいいだろう?」

「エンディミオン…」

それはクイーンにとっても同じ事。だからこそ誰が来るか分からないこんな場所で抱き合っていたら、いつものように止められなくなってしまう自分を抑える自信がまるで無かった。けれどぐるぐると考えているうちにキングから「セレニティ」と囁かれるままに耳にキスが落とされては、熱が身体中に駆け巡り彼の胸元を掴む手がぎゅっと強くなり、愛おしさが募っていくのをもう止められない。

「キスして。セレニティ」

「…っ!」

甘えるようなその夫からの掠れた声でのお願いに、この星の女神は全ての鎧を脱ぎ去って彼の首に腕を回して、溢れる愛をその唇に注ぎ込んだ。



おわり
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