短編D

□恋人は正義の戦士
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その日は夏らしい入道雲が浮かぶ、日差しの強いうだるくらいの蒸し暑い日だった。

遠出のショッピングをするため待ち合わせていたのだが、すでに集合時間を10分過ぎても一向に現れないうさぎに、衛は木陰で汗を拭って息を吐いた。
しかしそんな恋人を待つどこかふわふわした気持ちを一気に冷やす声が頭に響き、衛は暑さも忘れて駆け出した。


ーまもちゃん たすけて!!ー


これは戦闘している彼女から伝わるシグナル。そんな心の声を引き金に衛はタキシードに身を包む仮面の戦士へと鮮やかに変身していった。

そこへたどり着けばセーラームーンが敵の攻撃に激しく煽られ宙を舞っている姿が目に飛び込む。

「セーラームーン!!」

その痛々しい姿に血の気が引く思いがしても立ち止まることなく弾丸のように真っ直ぐに彼女へと飛ぶ体。

爆風から庇うように抱き寄せそこからさらに高い場所へと飛び立つ。



ビルの上でタキシード仮面は無事を確かめるようにセーラームーンの頬を撫でた。

「しっかりしろセーラームーンっ!」

「タキシード、仮面……」

ダメージがあったらしい肩を抑えて小さく呻いた彼女はそれでも笑って返事をした。

「うさこっ」

ほっと息を吐いたタキシード仮面はきゅっと抱き締める。そして赤く染まるそっと彼女の肩に触れた。

ヒーリングの力が彼女の傷を癒していき、荒れていた息も整っていく。

「まもちゃん、ありがと。」

「ああ。」

恋人のいつも通りの笑顔に、苦しかった自分の心も落ち着いていくのが分かる衛は、不器用に笑うと仕上げとばかりに月の戦士の唇にキスをした。

戦闘時冷静さを欠くことはできない。けれど彼女をこうして助けられた時の安堵感の大きさに己がどれだけ彼女の存在を大切に大事に思ってるのかが分かる。そして震えそうになっていた心を鎮めるためにもしたからか、その口付けは少しだけ荒々しいものになってしまった。

しかし直後に下から敵が駆け上ってくる気配を察知する。

「行くぞ、セーラームーン。俺もサポートする。」

「は!はいっ!」

赤くなった顔をぱっぱと払うように自分の頬をぺしぺし叩くセーラームーンは力強く頷いた。





「はぁー今日の敵手強かったわぁ〜。あのあとレイちゃんたちも来てくれてなんとか倒せたね。」

「来るのが遅くなってすまなかったな、うさこ。」

変身を解いた2人は再び炎天下を歩きながら手を繋いでいた。

「そんなことない!助けてくれてありがとー!まもちゃん!」

この笑顔を守ることができて、本当に良かった。前世から守りたいと思っていた大切な彼女を。

衛は空を仰いで、変わらないその青さに目を細めた。

「それに私だって待ち合わせに遅れちゃってごめんね。」

「いや、今回は仕方ないだろ。それよりうさこ?今日は暑いし、時間も少し遅くなっちまったし予定変更して俺の家行くか?」

肩の傷も心配だしと続ける衛の腕にぎゅっとくっつくうさぎ。

そして大丈夫だよ、まもちゃんが治してくれたもん。と頬を染めニッコリと笑う可愛すぎるその表情に微笑み返したあと、衛は真剣な顔をして前を向いた。

ーまいったな。今日帰してやれるかな……ー

戦闘後は互いにいつもよりも執拗に求め合ってしまう自分たちを想像してぱっぱと振り払うように頬をぺしぺし叩く衛であった。


おわり

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