短編D

□プロポーズ大全集
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「結婚しよう、うさ。」

「え……??」

最近まもちゃんはとても忙しかったから本当に久しぶりのデート。まんまるのお月様がとっても綺麗な夜、私たちは手をつないで歩いていた。

ここは、まだ中学生だった私と高校生だったまもちゃんが待ち合わせに使い始めてからずっと好きな場所。一の橋公園。

他愛もなくお話して目と目が合ったらキスをして、いつも通りのデートコースのはずだった。

まもちゃんは不意に立ち止まるとお月様を仰いで私にその白銀色の光を受けたとても綺麗な目を向けながらそう言ったんだ。

真剣なその表情は、まるで私の心臓と時を止めてしまったかのよう。

なかなか言葉の出ない私の左手を両手で優しく包んで、その薬指に光る石にそっと口付ける。


「俺と結婚しよう。うさ。」

「ま……もちゃん……」

その仕草、雰囲気がまるで王子様みたい……


目元を赤くして柔らかく笑う彼に心臓が忘れていた時間を取り戻すかのようにドキドキ鳴り始める。


そして私の中の、普段は眠っているセレニティがかつての彼の姿を思い出していた。


『セレニティ、指輪を贈ることはできないけれど、ここに永遠の愛を誓うよ。』

あの日の晩は嵐だったのに、それが過ぎ去るとまるで落ちてくるんじゃないかと思うほどの大きな満月が小さな窓から見えていた。

限られた時間の中で心と体で精一杯愛を交わし合ったあと、セレニティだった私の薬指にさっきあなたがしてくれたように口付けて涙を流しながら言ってくれた秘密の誓い。

前世と今の私たちは全然違う心と体を持って生きているって思ってる。けれど、それでも。私の中にいるあの頃の私が喜びに胸を震わせて泣いて彼へと腕を伸ばしてるのが分かった。

だってあの時は何もかも許されなかったの。そう。ただ一点、愛する人を心の中でそっと想い続けること以外は。

嬉しくて、うれしくて。




「もう一度……言って?」

その言葉は私とセレニティの二つの心が重なって出た願い。それを分かっているように小さく頷く彼。

「愛してる。俺と……結婚しよう。」

彼の中に同じように涙を流すエンディミオンを見つけて。

私は、わたしは。

大好きなたった一人の彼の胸へと飛び込んだ。

しっかりと受け止めてくれた彼は頭を撫でてから頬を包み顎をすくい取ると苦しいほどのキスをして、体中に伝わるくらいのいっぱいの愛を注いでくれた。



その日のディナーは都内でも有名らしいホテルの最上階で、ガラス張りの向こうには綺麗な夜景が広がっている。輝く世界にますます気持ちが華やいで、見たままの感想をまもちゃんにはしゃいで話せば、目の前に座る彼は少しだけばつが悪そうな顔をして笑みを浮かべた。

「ほんとはさ、ここでプロポーズしようと思ってたんだ。うさ、中学の時から言ってただろ?プロポーズされるなら、夕日が綺麗な海とか、夜景が素敵なレストランでとか……」

「そんなこと覚えてくれてたんだ!」

「当たり前だろ。うさとのことはちゃんと覚えてるよ。」

「まもちゃん……」

私が感動していると、その顔を見たまもちゃんの表情は今度は蕩けそうなほどに甘い。

「ごめんな。
けどさ、いつも通りにうさと手を繋いで歩いてて、見上げたら大きな満月が俺たちを照らしてる。そこには幸せな気持ちしかなかった。俺はうさと……うさことずっと一緒にこうして歩いていきたいって思ったから、ありのままの気持ちがこぼれたんだ。」

「うん……っっ」

「もう一度言ってもいいか?俺、うさからの返事をちゃんともらってない。」

泣いてる私にハンカチを渡してくれるまもちゃんはちょっとだけ拗ねたように聞いてくる。それが可愛くてふと気持ちがほぐれて笑って頷いたらまた涙が出てくる。

ダメだ、今日はきっと涙が止まらない日だ。だってこんなに幸せで、まもちゃんへの想いが溢れて溢れて止まらないのだから。

「うさ、俺のお嫁さんになってくれるか?」

お嫁さんという言葉に胸がキュンとなって、私は言葉にならずにハンカチで目元を押さえながらブンブン首を振る。

テーブルに置かれた彼の手をぎゅっと握ってハンカチから顔を上げた。

「……なるっ……たしっわたしを……まもちゃんのおよめさんにしてください……っ」

嗚咽交じりにそうやっと返せば、まもちゃんはくしゃっと泣きそうな嬉しそうな笑顔になって「ああ」と大好きな低い声で言ってくれた。少し震えたその響きと頭を撫でてくれる手の温もりに胸が一杯になって、やっぱり今日は涙が止まらない日なんだって思った。



あれだけ泣いたのにご飯もデザートまでしっかり食べる私を見て、まもちゃんはとにかく嬉しそうにしていた。

どしたの?って聞いたら、

「うさの食べてるところ見るの、好きなんだ。」

そう言ってくれて。私もまもちゃんのそういう時の笑った顔が大好き!って返したら口元に手を置いて目線をずらすと、そうかって耳を赤くして答えてた。

そんな風に照れたまもちゃんも……好きよ。

心の中でそっと呟いた。





レストランと一緒に予約してくれていたそのお部屋は見たこともないくらい豪華でベッドも大きくてお風呂場も広くてとにかくお姫様にでもなったと錯覚するほど素敵なスイートルームだった。

「まもちゃん!まもちゃん見て!すっごいベッドー!!」

興奮がさめない私はキングサイズのベッドにダイブしてしまう。

「こらこら、危ないぞ。」

「うっわぁーふっかふかだぁー♡まもちゃんもおいでよー!」

「……うさは本当に。」

頭をかいてむっとした顔のまもちゃんだったけど、結局こっちに来てくれてベッドの脇に座った。シャツの袖をくんと引くと振り返った彼の顔は夜の時の雰囲気を纏い始めていてドキッとする。

「あのね、あの言葉。もう一回言って?」

どきどきを隠すみたいにおねだりすると、ふっと息を吐いて袖を引いていた私の手を取って指を絡めた。

「結婚しよう。うさのこと、俺の奥さんにしたい。」

わわわっ!おくさん!!私の心臓、今夜もつかな……

「え、えへへ!お嫁さんって響きも嬉しかったけど、奥さんもひ・と・づ・まって感じがしてなんだか……いやーん!な感じ?」

「なんだよいやーんって」

はははって笑うまもちゃんの腰に抱き付く。

「うさ?」

「私、まもちゃんの奥さんになるんだね。」

肩をぐっと抱き寄せるまもちゃん。

「うさは、俺の事旦那さんにしてくれるか?」

「ふふっ」

「こらうさ!」

笑ってしまって答えない私にまもちゃんは男の子みたいにむくれて頭をくしゃくしゃってしてくる。

「きゃはははっ」

気付いたら彼はベッドに乗り上げて私の両側にに手と足を付いて覆いかぶさっていて逃げ場を塞がれてしまっていた。

「俺は、お前とじゃないと嫌だよ?うさ。」

かすれた声でどこか不安げなまもちゃんは夜の色になった瞳を私にまっすぐに注いだ。

私は彼の頬に手を添えて微笑む。

「私も、まもちゃんとじゃなきゃ嫌だよ。」

手を首に回して引き寄せてキスをして見つめ合うと、まもちゃんも触れるだけのキスを返してくれる。

「まもちゃん……愛してる。」

まもちゃんの目が大きく開く。あいしてるって言葉を今まで私があまり使わなかったからかもしれない。だけどね、あなたを思う気持ちがあとからあとから溢れてきて止まらなくて。

きっと私も自然にこぼれたの。

あなたを……あいしてる



まもちゃんの目からその瞳に負けないくらい綺麗な雫が落ちてくる。それに見とれてしまっていたのだけれど、はっと気づいた彼は私の首筋に顔をうずめてしまった。甘えるようなその仕草に胸の中がきゅっとなって、大好きな漆黒のさらさらとした髪を優しく撫でる。

「ねえまもちゃん?もう一回言って?」

わざと明るい声でおねだりする。そしたらふふって笑う気配がしてぎゅうっと抱きしめてくるまもちゃんはもう一度プロポーズしてくれた。

「愛してる。ずっと、うさだけだよ。結婚して二人で家族になろう。」

「うん!!」

穏やかな愛の波がまもちゃんの次の深いキスで激情に変わって。私はまもちゃんを。まもちゃんは私を甘くて一番深いところで抱きしめ合った。






fin.

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