短編D
□月影のセレナーデ(月影→うさ)
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ここは…どこ?
月明かりのような白くぼんやりとした視界の中。きらきらとその光を受けてまるで宝石の粒のように上から下へゆっくりと零れ落ちる砂時計。
見たこともないくらい大きなそれは、金の装飾が施されていてとても綺麗だった。
それに見惚れていると、どこからか声が聞こえてくる。
…ムーン…ーー
セーラームーン…ー
『だれ?!』
霧のようにもやが辺りを立ち込めていて、声がする方に叫んだ。
薄っすらと影が見えて、少しずつその姿がはっきりとしてくる。
『セーラームーン…』
『あなたは…!月影の騎士様…?!』
いつもピンチの時に助けてくれる彼が私のことを見つめて微笑んでいる。
ああその青い瞳…やっぱり、やっぱり衛さんに似てる…
だけど、バーチャンリアリティー…?だっけ。あの時に衛さんと彼が同時に同じ場所にいたから違うんだって分かった。
でも心が。心があなたなんだって…言ってる気がする。そして、あなたの心も…
『…会いたかった。セーラームーン』
『え…!?』
真剣な声でそんなことを初めて言われて胸が鳴る。
ドキドキしている私に彼はどんどん近づいてきて、その手が頬に触れた。
ど、どうしよう…っいつもと違うよ…っ
これは、夢なの…?
だけど確かに触れられた指先が、熱い。
その瞳も。込められる言葉も。
とにかく私は突然の彼からの熱に驚いて真っ赤になって声も出せずにいた。
『そう。ここは、君の夢の中。ここでなら私もひとときだけ自由に君と過ごすことが叶う』
両頬を掬い取られて彼の低音が耳に心地よく響く。まるで、優しい子守歌みたいに。瞳を潤ませしばらくぼうっと彼の事を見つめていた私はふと気付く。
『自由にって事は…じゃあ、いつもみたいにアデューってすぐに行っちゃわないんですか?!』
いつも助けてくれたあと、もう少しお話したくてもいつの間にか霧のように消えてしまうから、彼の言葉に嬉しくなって思わず大きな声で言ってしまった。
それを目を丸くして聞いていた彼はふふっと笑ったあと『夢の砂時計が全て落ちるその時まで、私は君のそばに』と、まるで王子様のように私の手を取って頭をそっと下げた。
私の心はますますエンディミオン…衛さんを感じてひとときも彼から目を逸らすことができなくなっていた。
そんな彼のもう一度見上げた時の瞳は、とても切なそうに見えて。
私の胸もきゅうっと苦しくなる。
こんな風に感じる相手は…やっぱり運命の恋人しかいないと思うの。
ねえ、そうでしょう?
『君が再び目覚めれば、ここでの私たちの戯れを全て忘れてしまうだろう。なればこそ…』
え…?
彼の言葉を拾い終わるよりも早く。私はその腕の中にいた。
嘘…
私、月影の騎士様にぎゅってされてる…?
『私は君のことを守ることができればそれで良かった。それなのに君にこうして触れたくなってしまった。私の我儘だ…許してほしい。
ただ一人の君がこんなに近くにいるというのに守るだけでは…己の心が満ち足りなくなってしまったのだ』
『月影の…騎士様…っ』
甘い囁きに私の心臓はどうにかなってしまいそうで。そう返すのが精一杯だった。
『セーラームーン。いや、うさぎ。私は君のことをもっと知りたい』
『…っ』
私の正体を…知っているの…?やっぱりあなたは…
『私も、この世界でならその素顔を明かそう』
『いいんですか!?』
ずっとガードされていたそのマスクを取ってくれるだなんて。信じられない!これは夢!?
あ……夢なんだっけ。
『そうしなければ、口づけもできまい』
ん…?くちづけ…?
『え!?えええええええ!!!???』
のんきに考えていた私は彼の言葉に心臓が今度こそ爆発した。
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