短編D

□蝉時雨、花の唄(まもうさ)
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「まもちゃん、お花これでいいかな。」

「ああ、ありがとう。うさ。」

普段あまり見ない黒いワンピースに身を包んだうさぎが用意しておいた控えめに作った花束を抱えて玄関で待つ衛に声をかけた。

衛も今日は黒のスーツに同じ色のネクタイを締めて彼女と向き合った。

衛の部屋に住職を招いての法要を済ませた彼らは寺に向かうために玄関を出る。

マンションの外に出ると、蝉が幾重にも重なって鳴いていて、日差しも強い夏の熱気があっという間に二人を包んだ。

「やっぱり今年も暑いな。うさ、ちゃんとこまめに水分取れよ?」

「大丈夫だよまもちゃん。心配性だなあ。」

ふっと笑うがその次には少しだけ切なそうな表情になって彼女は言葉を続けた。

「まもちゃん。私こそ、今日はありがとう。初めてだよね?こうして呼んでくれたの。」

「そうだな。あの日からもう十七回目の夏が来たから…」

衛が目を細めて入道雲の空を眺めると、そっとうさぎがその腕をきゅっと掴んだ。

その瞳は、私がいるよ?大丈夫。という気持ちが込められていて、衛は小さく胸を震わせながら微笑んだ。

「じゃあ行こうか。」

夏の日差しの中どこかへ消えてしまいそうにも見えた彼の笑顔に頷くうさぎは思った。

無理だと分かっていはいても、あの日、衛が一人ぼっちになってしまったあの日からずっと

ずっとそばで一緒にいられたら良かったのに、と。
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